はやぶさ2は2014年12月に打ち上げられ、2018年6月に目的地である小惑星リュウグウに到着した。この間の往路運転については、「問題はほとんど起きず、順調に動いていた」という。
順調さは数字にも表れている。初号機のイオンエンジンは、2万5590時間の稼働時間で68回の計画外停止が発生していたが、はやぶさ2の往路では、同6515時間でわずか4回に減少。平均間隔は376時間から1629時間へと、4倍以上長くなった。初号機の経験を踏まえ、各種監視設定を適切に行ったことで、これを実現したという。
また、イオンエンジンの稼働時間に対し、地上からの追跡管制に要した時間の比率は、初号機が20%であったのに対し、はやぶさ2では13%まで削減できた。稼働時間が長くなるのはイオンエンジンの宿命ではあるが、運用を効率化すれば、スタッフの負担をそれだけ軽減できる。スタッフからの評判も良いという。
西山氏は、「深宇宙探査をイオンエンジンでどんどんやる時代を目指しているのに、人間が付きっ切りでヘトヘトになりながら運用するというのはあり得ない」と述べる。将来を見据えると、手間がかからずに使えるイオンエンジンが絶対必要になるだろう、というわけだ。
往路運転で消費したキセノンは24kgで、残量は42kg。まだ3分の1ほどしか使っていないが、「復路では10kgも使わないだろう」とのことで、かなり余裕がある状態だ。燃料切れの心配はほとんど無く、地球帰還後の延長ミッションも期待できるのではないだろうか。
ただし気になるのは、小惑星へのタッチダウン時、舞い上がった砂じんでイオンエンジンが汚染されなかったのか、ということだ。この砂じんにより、探査機底面にある光学系のレンズが汚れ、受光量が低下するという問題が起きた。イオンエンジンは背面側にあり、直接当たる場所ではないものの、もし内部に侵入していたら深刻な問題になりかねない。
この点について西山氏は「注意は必要だが、今のところ汚染の兆候は見られない」と述べる。じつはイオンエンジンのすぐ隣には、「QCM」と呼ばれるセンサーが設置されている。これは水晶発振子を利用したもので、なにか粒子が付着して質量が増えると、周波数が低下するという性質を持つ。タッチダウンの前後で大きな変化は無かったそうで、取りあえずは一安心といえそうだ。
ところでこのQCMは、もともとタッチダウン時の汚染を想定して設置したものではなかった。はやぶさ2の観測装置は底面側に集中しており、イオンエンジンがある背面側には何も搭載されていない。これは小惑星の観測に適した配置になっているためだが、将来のミッションでは、イオンエンジンと同じ面に搭載したいケースも出てくる可能性がある。
そのときに懸念されるのは、スラスターから噴射したイオンによる汚染だ。噴射したイオンの一部は逆流して、探査機に当たることが分かっている。QCMは質量が減った場合にも周波数変動で検出できるので、戻ってきたイオンが衝突して水晶発振子を削れば、それが分かるというわけだ。
さすがに今QCMが付いているほど近い場所だと、汚染が大きくて観測機器の搭載は難しいようだが、イオンエンジンからどのくらい離しておけば問題無いのかが分かれば、安心して搭載してもらえる。QCMはその基礎データを取得するために搭載したもので、往路運転の結果、距離との相関もある程度分かりつつあるそうだ。
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