ただ、難しいのは単に面白い企画だからといって売れるわけではありませんし、大手を含む多くの企業が、エポック社と同様にキャラクターに頼らないノンキャラ路線も手掛けています。このように、より高い企画力が求められる状況の中で「カプセルトイができるまで」はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか? 「カプセルトイができるまで」の企画を担当したエポック社 ラクーン事業部 企画室の河本亜衣さんは企画誕生の背景を次のように説明します。
「この企画では、まず金属で何か面白いことができないか? というところから考え始めました。同時に、一般的にあまり知られていない、普段光の当たらない(注目されていない)ものに光を当てたいという思いも根底にあり、カプセルトイや玩具づくりに欠かせない、私たちにとってなじみ深い成形金型を思い付きました。メインターゲットはカプセルトイファンとフィギュア好きですが、個人的にはカプセルトイの生産や流通に携わる方々にも喜んでもらいたい、日ごろの感謝の気持ちを伝えたいという思いも込めてアイデアを練り上げていきました」(河本さん)
こうした思いとともに、もう1つ「カプセルトイができるまで」の実現を後押ししたのが、2018年9月発売の「元祖 たい焼き本舗」の存在だといいます。金属素材のミニチュアたい焼き機と、PVC(ポリ塩化ビニール)製のたい焼きがセットになった商品。単に商品としてヒットしただけではなく、想定外の使われ方を知って“型もの”の可能性を感じたのだそうです。
佐藤さんは「手持ちのフィギュアと一緒に写真を撮るなど、ジオラマ的に楽しむ人はいるだろうなと想定していましたが、まさかスカルピー(樹脂粘土)をたい焼きの原材料に見立てて、たい焼き機の型でミニたい焼きを量産して楽しむ人たちが現れるとは……。なるほど、こういうニーズもあるんだなと驚かされました」と、このときのことを振り返ります。
こうして2018年11月ごろから「カプセルトイができるまで」の商品化に向けた検討がスタート。普段、光の当たることのないモノづくりの舞台裏を具現化することで、目新しさを引き立たせ、かつミニチュア成形金型で“セルフ量産”が楽しめるという、フィギュア好き、カプセルトイ好きのための商品として企画を詰めていったといいます。
もちろん、こだわりは成形金型だけではありません。「塗装工程で使用するマスク型やスプレーガンもかなりマニアックなツールですが、同じく金属素材で作ることでリアルさを追求しました。また、完成したカプセルトイをカプセルに入れ、段ボール箱に梱包する工程も再現したいと考え、実際に使用している段ボールのデザインをまねてミニチュアの段ボール箱を作り込んでいます。おそらく本当にカプセルトイ事業に関わっている人でなければ分からない、かなり細かな部分にまでこだわっています」と河本さん。
しかし、それでも営業サイドの目は厳しかったといいます。目新しさと想定を超えた遊び方ができる面白さとは裏腹に、一般的とは言い難いこの企画の良さを顧客は理解してくれるのか? という懸念の声が上がり、その取りまとめにかなり苦労したそうです。それもそのはず、カプセルトイは受注発注が前提となるため、顧客である問屋やオペレーターが在庫を抱えることになっています(飲料自動販売機と同様です)。売り切らないといけない構造であるため、どうしても売れる商品、売れそうな商品を中心とした保守的な発注になってしまうのが実情なのだそうです。そうした相手に商品をアピールしなければならない営業からすると、“やや伝わりづらい商品”に対してはどうしても厳しい目にならざるを得ないというわけです。
通常、企画チーム内の会議を通ったアイデアは、開発&営業会議、社長との商品化決定会議の承認を経て、コスト的に問題がないかの最終チェックをしてから、原型製作、3D図面作成のプロセスに進み、およそ6カ月後の発売を目指して動き出します。ただし、前述した通り、受注発注が基本であるため、一定の生産量(受注)が見込めない場合、発売中止になることもあるそうです。実際、年間で数点ほど、いわゆる“お蔵入り”になってしまう商品もあるのだとか(企画としては承認されたのに……)。「今回の『カプセルトイができるまで』は、そういう意味でギリギリのところだなという感じでいましたが、これまでにないユニーク商品でもあり、企画者(河本さん)の思いも強かったので、最後は『ぜひチャレンジさせてほしい!』と営業サイドを説得し、生産にこぎ着けることができました」と佐藤さん。
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