これからも、建機という枠組みを超えてシステムは大規模化し、バリエーションは増えて行く。新たな機能や要素技術も増える。コマツでは、これらの課題に対応する新たなソフトウェア開発体制として「素早さ」と「堅実さ」を兼ね備えることを目指している。
現時点で「素早さ」が不足しているのは、「何のため」の開発であるかが分からずに機能検討に無駄に時間を要しているからだ。また「堅実さ」が不足しているのは、要求を正しく満たす機能が実現できない場合があるからである。北村氏は「まずは、複雑化する製品のコンセプトや設計意図をきちんと整理し、検証できる開発プロセスが必要になる。MBSEはそのためのものだ。併せて、見える化施策となるSysMLモデルによる記述も採用した」と説明する。これにより、「何のため」が分かるので、正しく検証し素早く機能検討することが可能になる。
MBSEの導入によって2つのことが期待できるという。1つは、要求から制御コントローラーの構造設計、振る舞いの設計、シミュレーションまでをつなげられることだ。もう1つは、従来のモデルベース開発(MBD)で構築したシミュレーションモデルとの連携による妥当性の検証である。
しかし、「素早さ」と「堅実さ」は、さまざまな製品や機種をラインアップしていくための機能の共通化やバリエーションの管理でも必要になる。「素早さ」の観点では、機能の横にらみが十分にできず、各機種開発で二度手間が発生するという課題がある。また「堅実さ」では、機種が派生するごとにソフトウェア管理が複雑化し、横展開も困難になる。「MBSEは機能の共通化やバリエーションの管理に有効な手法とはいえない」(北村氏)ため、共通機能を整理し、統一管理したソフトウェア部品を安心して使い回せるプロダクトライン開発を導入することとした。これで、全機能を統合管理した資産により派生開発に強いソフトウェア開発を行えるようになる。
プロダクトライン開発ではまず、建機の「仕事」と「動作」、対応する「構成要素(モノ)」に分解していく。北村氏は「建機の各機種で行う『仕事』の内容は異なるが、それを実現するために行う『動作』は同じだったりする。『仕事』が決まると『動作』が決まり、それに関わる『構成要素』が決まる。形や大きさについては、現場環境や対象物で変わる」と説明する。さらに、「動作」に対しては「動作の制御」が、「構成要素」に対しては「モノの制御」が決まる。形や大きさはパラメータになる。
つまり、プロダクトライン開発というコンセプトでは、全ての機種は共通機能部品で構築可能になるわけだ。機能のバリエーションは、構成要素やオプションなどで派生させればよい。そして「動作の制御」や「モノの制御」は、「コア資産」として使い回せることになる。
プロダクトライン開発をソフトウェア開発に導入すれば、現場に合わせたソフトウェアのカスタマイズとアップデートも容易になる。従来、現場の要求を反映したソフトウェアの開発と実装には、再設計や再品質確認のためのリードタイムが必要だった。これを、共通機能部品の組み合わせによって実現できるようになるので、リードタイムを大幅に短縮できる。
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