ソニーから譲り受けた村田のリチウムイオン電池、「燃えない」を武器に黒字化急ぐメイドインジャパンの現場力(29)(3/3 ページ)

» 2019年09月03日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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セルの品質にばらつきのないことが強み

 フォルテリオンが蓄電システムになるまで、村田製作所の複数の生産拠点がかかわっている。電極を作るための材料の混合、塗布、プレスといった工程は郡山事業所からクルマで15分ほど離れた東北村田製作所の本宮工場が担う。郡山事業所では、スリット、巻取り、組み立て、充放電、梱包といった工程を行う。

家庭用蓄電システムの製造プロセス(クリックして拡大) 出典:村田製作所

 電極とセパレーターを巻取った工程の後は、ドライルームで円筒形に組み立てられる。その後、セルは付着した電解液などをブラシと水で洗浄し、外部ショートを防止するためポリプロピレンのチューブがかぶせられる。チューブの状態は画像認識で全数検査する他、正極と負極の位置が正しいかどうかもX線で検査する。基準に満たないものはNG品として自動的に取り除かれ、検査をクリアしたものはロボットによってトレイに収められる。

 トレイに収められたセルは、1〜2週間かけて充放電しながら品質を確かめる。充電中や充電後の自己放電などの中で電圧を5〜7回測定し、基準外のセルをより分ける。取引先からは、セルの性能のばらつきが少ない点が高く評価されているという。

 充放電工程では、作業員がバーコードで生産日と時刻を記録した後、セルの収められたトレイはトラバーサーとクレーンによって自動で充放電設備まで運ばれていく。充放電装置のラックはトレイが1つずつ収まるようになっており、セル1つ1つに対応したピンで充放電と電圧測定を同時に行う。充電中のセル1つに電圧の異常があると、そのセルだけ充電を止めるなどの制御も自動化されている。電圧が低いセルは充放電工程が終わった後に自動でトレイから取り除かれる。充放電工程を終えたセルは、目視による外観検査を経て、箱詰めされて輸送される。

チューブの取り付け状態の外観検査やX線検査をクリアしたセルが流れてくる様子(左)。充放電工程は最小限の人手で作業が進む(中央)。1〜2週間かけて充放電させてより分け、品質のばらつきをなくす(右)(クリックして拡大)

 梱包されたセルは金津村田製作所(福井県あわら市)に送られ、家庭用蓄電システムとして組み立てられる。家庭用蓄電システムはパワーコンディショナーまで社内で手掛ける。オフグリッド向けや工場向けなど大型の蓄電システムは、システムインテグレーターや電源メーカーがパワーコンディショナーとともに完成品を組み立てるため、村田製作所は取引先に近い場所でバッテリーマネジメントユニットなどと併せて蓄電モジュールを部品として納入する。

 村田製作所は、大型蓄電システムについて日本の他、欧州、オーストラリア、カナダ、プエルトリコなどで納入実績がある。現在、メンテナンス性の高さや省スペース化を理由に鉛蓄電池からリチウムイオン電池への置き換えが進んでいるという。瞬時電圧低下対策でms単位での即応性が求められる点や、瞬時電圧低下対策以外の用途も含めたマルチユースではキャパシターやNAS電池よりもリチウムイオン電池が適しており、今後の需要拡大を見込む。

蓄電モジュール。住宅用(左)と大型用(右)(クリックして拡大)
本宮工場に設置している大型蓄電システム(左)。内部の様子(中央)。内部を再現したモックアップ(右)(クリックして拡大)
くぎ刺し試験で燃えるリチウムイオン電池(クリックで再生)
フォルテリオンはくぎ刺し試験でも燃えない(クリックで再生)

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