月面開発ベンチャーのispaceは2019年8月22日、東京都内で会見を開き、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」の計画変更と、シチズン時計、スズキ、住友商事などの新パートナーを加えたことを発表した。
月面開発ベンチャーのispaceは2019年8月22日、東京都内で会見を開き、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」の計画変更と、シチズン時計、スズキ、住友商事などの新パートナーを加えたことを発表した。
ispaceが今回の会見で発表した内容は主に2つに分かれる。1つ目は、2018年9月に発表した月面探査プログラム「HAKUTO-R」の計画変更である。HAKUTO-Rでは、新開発の月着陸船(ランダー)と月面探査を行うローバーを開発し月面探査を行うプロジェクトだが、「ミッション1」として2020年半ばに月周回、「ミッション2」として2021年半ばに月着陸と月探査を行うことを計画していた(※)。
(※)関連記事:「HAKUTO」再び、ispaceが“史上初”の民間月面探査プログラムとして再起動
今回新たに発表した計画ではそれぞれの「ミッション」の内容とスケジュールを変更する。「ミッション1」については、2021年後半をめどに月への軟着陸を目指す。「ミッション2」については2023年前半をめどに月への軟着陸とローバーによる月探索を実施する。
実質的な月面探査は約2年の後ろ倒しとなるが、この要因の背景としては、数カ月の開発の遅れとともに、米国航空宇宙局(NASA)が2017年12月に発表した「CLPS(Commercial Lunar Payload Services、商業月ペイロードサービス)」の存在がある。
CLPSは2018年から10年間でおよそ26億米ドルの予算をかけて月面輸送事業者の育成を目指すプログラムである。ispaceも米国ドレイパー研究所、General Atomics Electromagnetic Systems(GA-EMS)、スペースフライトの3社と共同で参加している。同プログラムでは、早期の月面着陸に対してプライスインセンティブを提供するなど、NASAによる早期月面着陸への強い要望があるとされている。
ただ、2018年11月に行われた第1回入札では落札できなかったという。そこでHAKUTO-RとCLPSを一体化して進められるように、「月着陸」へ目標を集約することに決め、今回のミッションとスケジュール変更へと踏み切ったという流れだ。
ispace 創業者兼CEOの袴田武史氏は「CLPSで落札ができなかった際にispace内でもさまざまな議論が生まれたが、スタートアップ企業で2つのプロジェクトを同時並行で進めることには無理があるという結論に至った。そこで、NASAの要望が強い『月着陸』を最優先で考えるために、HAKUTO-Rのミッション1で位置付けていた『月周回』をストップし、世界初の民間月着陸を目標とする形に切り替えた」と述べている。
CLPSの最初の入札では、Astrobotic、Intuitive Machines、OrbitBeyondの3社が落札しており、これら3社の計画ではいずれも2021年前半までには月着陸を実現し何らかの貨物を運搬する計画となっているが「(全てが計画通りに進むかどうかは分からないので)われわれにもまだチャンスは十分にあると考えている。民間初の月着陸という目標は掲げ続ける」と袴田氏は語っている。
HAKUTO-RとCLPSによる開発を合わせるためには、NASAによるCLPSの条件に合わせる必要が出てくる。「例えば、ランダーの最終製造を米国内で行う必要があるという点や、部品の50%以上を米国内で調達するなどの条件である。それにより、部品調達や試験などは再度行う必要がある」(袴田氏)としている。
現在の開発状況は、ランダーが試験機製造を開始している段階で2021年前半までには開発を完了する予定。ただその中でも強度不足の問題があったり、推進系での配管設計の最適化などの問題があったり、試行錯誤を進めている段階だという。
ispaceでは、HAKUTO-Rの2回の打ち上げについては既に米国のスペースX(SpaceX、Space Exploration Technologies)と契約を完了している。月着陸船との情報のやりとりを行う地上局については、欧州宇宙運用センターという欧州宇宙機関(ESA)の持つ施設と契約を行ったという。またミッションコントロールセンターについては都内に設置する予定だが、場所については検討している段階だという。
袴田氏は「まさに仮説と検証を繰り返して、課題解決に取り組んでいる状況だ。着陸脚の開発などについてもこれから行う。その他、地上局との契約やミッションコントロールセンターの設置など必要な準備を進めている」と語る。
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