―― カメラ以外にも、撮った画像を管理できるPC用ソフト「D'z IMAGE Viewer」を無償提供されていますね。これはどういうものなんでしょうか。
青木 これまでの患部撮影では、最初にカルテの写真を撮って、それから患部を撮って、という繰り返しでやっていたそうです。そうするとサムネイル表示したときに、カルテの画像が次の患者さんへの変わり目になるので、それごとにお医者さんが手動で振り分けていくという作業をされていました。それを診療後にやっているそうで、1日何百枚という画像を振り分けるのに何時間も残業されているという話も聞きました。それならうちで貢献できる可能性があるなと。
このカメラで撮影前にID、例えばカルテナンバーなどを入力しておくと、撮影後にPCに取り込んだときに、自動でIDごとに振り分けてくれます。
―― その他、このカメラならではという機能はありますか。
青木 そうですね、接写した画像の上にメジャーを表示できる機能というのがあります。患部の大きさがその場で何mmかが分かるという。撮影距離もレンズの焦点距離も固定ですので、ピクセル数を数えれば長さが分かります。これも、メジャーの角度を自由に回転できるようにしました。縦長、横長のほくろがありますし、メジャーの表示で測りやすい状態で必ずしも撮影できるわけではありませんから、ならばメジャーの方を回しちゃおうと。
―― それは新しいですね。一般的にカメラに出てくるスケールって水平をとるものですから、それを手動で回すという発想はなかったです。
青木 D'z IMAGE Viewerの方では、任意の2点間を測る機能がありますので、そちらと併用していただく格好ですね。
―― この医療分野というのは、カシオにとって今後力を入れていく分野なんでしょうか。
大塚 それほど簡単な話ではないですね。ただ、ベースとなるカメラを作ってしまえば、後はレンズユニットの設計を変えるだけでさまざまな分野に応用できるだろうとは考えています。例えば、子宮頸がんを見るために、30cm先の直系3cmのターゲットをライティングして撮影するといった用途向けに、このカメラをベースに開発した試作品を参考出品したりといった具合に、少ない投資でいろんな診療科の先生に使って頂けるような展開ができるんじゃないかという風には、ちょっと考えているところですね。
これまで筆者も、歯医者さんなどで患部の写真を撮影されたことはあるが、口の中に向かってでっかい一眼レフカメラが近づいてくるというのは、患者としてはちょっと怖い。また、患部が狭いと、ライティングやフォーカスの調整が難しく、何枚も撮影された覚えがある。お医者さんは疾患のプロだが、撮影のプロではないのだ。
皮膚科用の撮影も、従来は一眼レフに専用アダプターを付けて撮影していたそうだが、このアダプターだけでだいたい25万円程度するそうである。一方、DZ-D100は、カメラ全体で19万9000円(税別)で、画像管理ツールも付いてくる。販売はWebサイトのみということもあるが、学会などでDZ-D100を展示していると、その場でスマホを使って「ポチる」お医者さんも結構いるという。ここまで特定専門分野に特化すると、「確実に刺さる」ということだろう。カシオが積み上げてきた撮影および画像処理技術が、カメラ事業撤退によって水泡に帰することを恐れていたが、こうしてしっかり生き残る道が開けたことは、素直に喜びを禁じ得ない。
医療分野には非常に高額な専用機器もたくさんあり、大きなビジネスではあるのだが、そういう専用機がない部分については各医師が自分で工夫しながらコンシューマー機を導入したりと、意外に苦労されているようだ。今回のDZ-D100のような、「医療補助ガジェット」的な分野というのは、技術力のあるメーカーにとって案外参入の余地があるのかもしれない。
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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