―― コンシューマー事業から撤退しておよそ1年、早速皮膚科用のカメラということで、そのスピードに驚きました。これは一体どういう経緯で開発することになったんでしょうか。
青木信裕氏(以下、青木) 弊社はずっとデジカメ事業をやっていたわけですけれども、2011年ぐらいからですかね、デジカメの写真を撮った後に楽しむ、「イメージングスクエア」っていう画像変換サービスがありました。写真を絵画調にしたり、HDR風にしたりとか、そういうWebサービスをやってたんですね。
そこのサービスの会員さんに、たまたま皮膚科の先生がいらっしゃったんですね。そのお医者さんから連絡をいただきまして、皮膚科で使われる「ダーモスコピー検査」という診療があるんですけど、それを行うのにイメージングスクエアで提供しているHDR変換がものすごく有用だ、というお話を伺いまして。
最初何のことだか全然分からなくてですね(一同笑)、よくよく話を聞いてみますと、ダーモスコピーというのは、ほくろを拡大して観察するという診察法で、それでただのほくろなのか悪性の皮膚がんなのかを判断するという手法だったんです。そこでそのほくろの写真を撮ってHDR変換をかけると、中の模様が見えやすくなるというお話だったんですね。
最初はそれを論文にしたいということでしたので、弊社の名前も出してもらって構いませんよというお話だけだったんです。しかし、2年ぐらいしてその先生とお話をしている中で、HDR変換というサービスは少しアート寄りなので、色味が赤っぽくなったり緑っぽくなったりするという指摘がありました。それだと皮膚の色が変わってしまいますので、色味を変えずに構造物をはっきりさせるような変換を作れませんか、という話が出てきて。
じゃあ、われわれの技術が医療に役に立つのであればやってみよう、ということがきっかけになります。
―― カシオといえば、アジア圏においてかつては神機と呼ばれた「TRシリーズ」もありました。肌のトーンがきれいということで話題になったわけですが、当時から肌の表現に対する技術が高かったということなんでしょうか。
大塚浩一氏(以下、大塚) そういう意味では、周囲の条件がいろいろ違っても、肌だけは変わらないといった処理技術は弊社で持ってますね。目を大きくしたりといった加工まではやらないにしても、シワが見えないようにだとか、トーンを残しながらも肌がきれいに見えるだとか、そういったことはかなり研究してます。
―― これまではエンターテインメント方向に機能をまとめていったものが、医療となると今度は正確さだったりファクトだったりといったことが求められてきますよね。技術をまとめていく方向性が全然違うと思うんですが、そのあたりで何かご苦労はありましたか。
小甲大介氏(以下、小甲) 一般的にはカメラってきれいに撮りたい、鮮明に撮りたいという需要があるんですけど、お医者さんはやっぱり、見たまま、自分が観察した状態そのままが記録されて欲しいというニーズがあるんですね。
われわれがこれまでやってきたこととそこが違ってるんですけど、ただ画像処理をしてユーザーが求めるものにするっていうのはずっとやってきたことなので、今度はナチュラルに照準を合わせていったというところですね。
―― 最初はWebサービスだけだったんですね。プレスリリースを拝見すると、カメラ開発では共同研究として千葉大学の名前も上がっていますが。
青木 最初に声をかけて下さった皮膚科の先生から、ダーモスコピー診療のトップドクターとして、東京女子医科大学東医療センターの田中勝先生をご紹介いただきました。そこで共同研究が始まったんですけど、成果を学会に出してみようということになって、その際に千葉大学の外川八英先生をご紹介いただきました。
当時は専用ハードウェアとかなくて、先ほどのWebサービスの変換機能を使って、自分で撮った写真をアップロードして変換かけると見やすくなりますよっていう話だったんですね。ただ、やっぱり専用ハードがいるなぁって話になって。
そういう専用ハードウェアって世の中にないんですよ。これまでは、普通の一眼レフのデジタルカメラに特殊なコンバージョンレンズを付けて撮影するっていうのがあるんですけど、あんまり画像もきれいじゃないですし。先生方に聞いてもやっぱりちゃんとしたカメラがないんだよっていう話をしてました。われわれもカメラを作ってましたので、じゃあうちが作るべきかな、という風になりました。
小甲 青木の方は企画推進部でもともとWebサービスをやっているメンバーなんですが、私達はカメラを開発したしていた部隊なんですね。今回の件はまずWebサービスの方が先行していて、そこで既にコミュニケーションが取れていた。そんな流れの中で、われわれに専用ハードの話が来たわけです。
それと前後して、コンシューマー向けカメラ事業からの撤退があったりしたんですけれども、こっちがまだあるぞみたいな。そういう瀬戸際のところでこのカメラを作ってきたんですよね。
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