タントの初代モデルは子育て層をターゲットとしており、子育て層が実際のユーザーの大半を占めていた。しかし、過去2回の全面改良のたびに、シニア層のユーザーも増えてきた。助手席や後部座席に高齢の家族を乗せるユーザーも増えているという。
日本の人口に占める65歳以上の比率は、2025年に30%に達する見通しだ。要介護者数は2015年に600万人を超えており、今後は要支援やその前段階、軽度の要介護者の増加率が高くなると予測されている。ダイハツ工業では福祉車両として、助手席が回転、スライド、リフトする車両や、車いすのまま乗り込める車両を展開してきたが、要支援や軽度の要介護者に向けた車両がラインアップになかった。こうしたユーザーからは「福祉車両はまだ自分たちが使うクルマではないと思う」と抵抗感を示す声が上がっており、販売店からも福祉車両の提案には気を遣うという意見があった。
こうしたニーズを取り込むべく、ダイハツ工業は産学共同で標準車両と福祉車両の間を埋める装備を開発した。新型タントの開発初期段階から、運動学を研究する鈴鹿医療科学大学や、三重県四日市市の主体会病院の理学療法士が協力し、地元に住む高齢者も参加して乗り降りしやすい手すりやステップを検討した。
開発の成果は新型タントのオプション用品として設定されている。ステップや手すりの装着により、上下方向の重心移動が少なくなり、身体の負担を軽減できることを確かめた。また、人の手を借りなければ乗り降りできなかった高齢者が、自力で乗降できることも確認された。日常のささいな動作で人の手を借りると、高齢者は「迷惑を掛けているのではないか」と不安や負い目を感じやすくなる。クルマの乗り降りという点で移動に対するハードルを下げ、高齢者の社会参画をサポートする。
新型タントの開発初期からこうした取り組みを進めた結果、車体骨格の設計段階から高齢者向けの装備や福祉車両に必要な仕様を前提とした強度、構造にすることができたという。従来は、標準仕様の車体が開発されてから福祉仕様を追加していたため、装備の取り付けに制限があった。
例えば従来は、ピラーに取り付ける手すりなどは車体への加工、補強が必要となるためコストが高かった他、畳んだ車いすを持ちあげるリフトは床下にしか搭載できないため、荷室空間が制限されるといった課題があった。新型タントの車体骨格は、全車種共通で手すりの取り付けを前提とした。また、一部グレード向けには畳んだ車いすを持ち上げるリフトを天井に装着することを前提とした強度の骨格とした。
高齢化が日本だけでなく各国で進むことを考えると、運転支援システムだけでなく、乗り降りのしやすさなども含めて高齢者に優しいクルマづくりの重要性が高まりそうだ。
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