京都に見る、100年企業を生み出す秘訣とは?モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

不動産を中心に資産形成コンサルティングを行うボルテックス内のシンクタンクである100年企業戦略研究所(東京都千代田区)は、PHP研究所の理念経営研究センター(京都市)と2019年5月22日、シンポジウム「THE EXPO 百年の計 in 京都」を京都市内で共同開催した。本稿では、京都の100年企業によるパネルディスカッションの様子を紹介する。

» 2019年06月18日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 不動産を中心に資産形成コンサルティングを行うボルテックス内のシンクタンクである100年企業戦略研究所(東京都千代田区)は、PHP研究所の理念経営研究センター(京都市)と2019年5月22日、京都市内でシンポジウム「THE EXPO 百年の計 in 京都」を共同開催した。本稿では、京都の100年企業によるパネルディスカッションの様子を紹介する。

 今回のシンポジウムのテーマは「京都の老舗――イノベーション力の謎を解く」である。長寿企業が多いとされる日本の中でも、京都ほど長寿企業が集中する都市は他にはない。また、世界有数の観光都市となっている1つの要因として、老舗企業を育んだ都市の条件と企業自身の高いイノベーション力があるともされている。パネルディスカッションでは、京都市内の老舗企業3社が出席し、京都の老舗企業がイノベーションを成功させてきた要因と、行政、教育、企業力のコラボレーションにより老舗がけん引する京都の都市力などについて話し合った。

 パネリストとして出席したのは、業務用計量機器(はかり)メーカーであるイシダ(創業125年) 代表取締役社長の石田隆英氏、元禄二年(1689年)創業の麸屋半兵衛麸の代表取締役社長である玉置万美氏、西陣織の老舗である細尾(創業331年)の常務取締役 細尾真孝氏の3人だ。この他、大阪大学名誉教授の宮本又郎氏、ボストンコンサルティンググループのシニアアドバイザーである御立尚資氏、PHP研究所理念経営研究センター代表の渡邊祐介氏が参加した。

photo シンポジウム「THE EXPO 百年の計 in 京都」のパネルディスカッションの様子

京都が持つイノベーション力と独自の企業理念

 日本には約3万の長寿企業(創業100年以上の企業)があり、創業200年を超える企業に至っては世界全体の約56%が日本企業だとされている。この日本の中でも京都府は、老舗(創業100年以上)の出現率が全国の都道県別で最も高いという調査結果が出ており、圧倒的な存在感を示している。

 古都でもある京都から長寿企業が生まれやすいというのは、当たり前のようにも見えるが、実際には100年ずっと同じことをやり続けている企業は非常に少なく、企業が長く生きることを実現するためには、伝統を守るだけでなく、イノベーションが必要である。また一方で、長い期間でも企業姿勢が崩れない独自の家訓や企業理念などにもその秘訣があると考えられている。

photo 半兵衛麸の代表取締役社長である玉置万美氏

 企業理念について石田氏は「自分良し、相手良し、第三者よしという『三方良し』を理念としており、目指すべき姿として、世界の人々に喜ばれ、世の中に必要な存在であるという意味の『世の適社・適者』を掲げている。さらにこれを実現するための行動規範を定めた」と紹介した。また、イシダではこの行動規範の意識を高めるために表彰制度(理念・行動規範表彰)なども設けているという。

 玉置氏は「『先議後利(道義を優先させ利益を後回しとする)』と『不易流行(変わらないものと変わっていくものを両方とも生かす)』を家訓として受け継いでいる。経営目的として麩とその関連した商品やサービスを通じて、京都および日本の文化の伝承と発信を行い、社会の充実に貢献することを掲げている」などとした。

 細尾氏は「着物文化に携わり、その文化を守り、さらに海外へ西陣織を素材とした事業の展開などがある。その際には『More Than Textile(モアザンテキスタイル)』というスローガンを掲げて、バイオテクノロジーやAIを用いるなど大学研究機関と共同した活動を行い、着物文化を高め、さらに、これを通じて職人の地位を高め上げていくことにも取り組んでいる」と述べた。

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