長年生き抜いていくたねには、事業戦略も重要だ。事業戦略について石田氏は「製品開発では、シーズベースとニーズベースの2つがあるが当社の場合、100%ニーズベースで進めている。顧客はほとんどが食品工場やスーパーマーケットであり、その顧客の困りごとの解決を図ることをベースに、イノベーションを続けている」と基本的は方針について説明する。
さらに、「横軸を技術(既存〜新規)、縦軸を市場(既存〜新規)としたFamiliarity Matrixに表してみると市場はほぼ既存客が対象であると分かった。計量器を手始め、業務に関連する包装機や検査機、POS、電子棚札などを決まった顧客に納入する形となっている。そこでこれらの市場に対し、新しい技術を取り入れることが必要で、大学との共同研究などを行い、イノベーション実現に向けて取り組んでいる」と説明した。
また、最近では全く新しい取り組みとして、病院向けの「排尿計測システム」を発売することを発表。同システムは看護師の業務の3割以上を占めるとされる計測や報告の手間を大幅に軽減できるもので、新事業として確立していく方針だ。「2019年に米国で(会社)を立ち上げ、ビジネス化を進めた後、日本に持って帰ることにしている」(石田氏)という。
他の2社もさまざまな新たな取り組みを重ねている。玉置氏は「菓子メーカーと連携して麩にチョコレートをコーティングした菓子を作ったり、パティシエと共同で新しい菓子を開発したりするなど新しい取り組みを行っている。(東京の店舗がある)ギンザシックスでは、『ふふふあん』という別ブランドでチーズを練り込んだ製品を販売している」と、伝統的な麩という食品に興味を持ってもらうような新ジャンル製品の開発を強化しているという。
細尾氏は、インテリアデザイナーや建築家、有名ブランドなど外部とのコラボレーションの状況を紹介。「クリスチャン・ディオールの店舗内の壁紙などから始まり、リッツカールトン東京ではベッド後ろの壁面に西陣織を展開している。そのために1.5mの織り幅の素材を織れる織機も導入した。こうした挑戦がイノベーションのカギになる」と述べた。また、現在、西陣織とバイオテクノロジーとのコラボにより、クラゲのDNAを抽出し、蚕に組み替え「光るシルク」という素材の開発に取り組んでいる。
京都で活動するメリットについては何があるのだろうか。石田氏は「良い人材を供給してくれる大学や、有力部品メーカーが多い点、さらに懇意な経営者が多数いるところ」など3つの魅力を紹介した。
玉置氏は「京都でなければ、これまで存続できなかった。京都の水が麩づくりに合っているところが大きいが、異業種の経営者とのコミュニケーションがとれるところも助かっている。また、新しい物好きの気質もあり新製品開発でも評価し、応援してもらえるところもありがたい」と述べた。細尾氏は「長年続いている伝統工芸があることで過去を振り返りながら、新しいイノベーションが起こる土壌がある。文化の基盤がしっかりしているところも大きな特徴だ」と訴えた。
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