また製造業では、バリューチェーンだけにとどまらず、商品の設計開発に関わるエンジニアリングチェーンや、開発した製品を工場で生産するためのプロダクションマネジメントチェーンも複雑に絡み合っており、多くの“際”が存在するのが実情だ。「“際”にある問題を解決することで、全体最適化にスムーズに進んでいけるということを理解し、目的をもって手段を適用することが重要」(森田氏)だという。
このようなバリューチェーンの最適化を推し進めるためには、日本の製造業が得意とするさまざまな改善を積み上げることが前提になる。日立は、独自に策定した「Maturity Model(成熟度モデル)」に基づいて、成熟レベルをステップアップさせていくフレームワークを提案している。森田氏は、このMaturity Modelの中でも、改善にとどまらずイノベーションに発展させることが重要だと説いた。「グローバルで戦っていくためには、日本の技術やノウハウの集約によるモノづくりの進化が必須条件であり、改善からその先のイノベーションに発展させることが重要だ。日本の製造現場には、これまで各社がそれぞれ改善を重ねて、高いレベルへ到達したモノづくり力がある。しかし、このモノづくり力から、さらにスピード感のある成長へと企業を導くためには、個別改善では限界がある。この『壁』を乗り越えるため、自社単独の改善から、さまざまな『つながり』によるイノベーションを起すことが必要だろう」(森田氏)。
このイノベーションを起す方法として日立が重視しているのが「顧客協創」であり、それを実現するのがデジタルソリューションIoTプラットフォームの「Lumada」である。顧客の経営課題や社会課題の解決を原点に据え、日立グループに加えて、ITパートナー、研究パートナー、OTパートナーが参画する協創の場を提供するというのがLumadaのコンセプトとなる。
2016年に発表されたLumadaでは、そのユースケースから抽出されたOTとITのノウハウがパッケージ化されており、現在までに300〜400が蓄積されているという。森田氏は「これらのパッケージを的確に組み合わせて、さまざまな課題の解決を目指すのがLumadaの根本的なプラットフォームの考え方になる」と説明する。
Lumadaの強みは、日立が自社工場をはじめとする現場で積み重ねてきたノウハウをベースとするソリューションを提供することだけでなく、オープンなIoTプラットフォームとして顧客と積み重ねてきた協創にある。
森田氏は、バリューチェーンにさらなる進化をもたらす「次世代マニュファクチュアリング」「次世代ロジスティクス」「次世代メンテナンス」の取り組みの中から、さまざまな顧客協創事例を紹介。次世代マニュファクチュアリングではアマダ、ダイセル※1)、ダイキン工業※2)、次世代ロジスティクスでは三井物産※3)、次世代メンテナンスではニチレイロジグループ本社、昭和電工※4)と協創を行っているという。
※1)関連記事:ダイセル式生産革新がさらなる進化、日立の画像解析でミスや不具合の予兆を検出
※2)関連記事:IoTで熟練技術者の技を盗め、生産技能伝承でダイキン工業と日立が協業
※3)関連記事:日立と三井物産がスマート物流で協創、AIが熟練者も考え付かない配送計画を立案
※4)関連記事:大量生産から多品種少量まで、日立の「Lumada」が化学工場をスマート化
これらの中でもアマダとの取り組みは最新の事例報告になる。アマダは2007年から日立の設備やロボットといった「プロダクト」の導入とOTへの展開を進めてきたが、2019年からはIoT活用による生産現場の高度化、2020年からは生産データとの直結によるITとの融合を進めて行く計画である。
具体的には、アマダの富士宮事業所(静岡県富士宮市)と土岐事業所(岐阜県土岐市)にハンズフリーの「組立ナビゲーションシステム」や「生産日程計画自動立案システム」などを構築する。さらに、製造現場の4M(Man、Machine、Material、Method)データを用いて一元的な見える化を実現する「製造ダッシュボード」も導入する予定だ。
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