機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第2回はJIS規格を基に「幾何公差とは何か?」ついて掘り下げる。
「幾何公差」について本格的に深掘りする前に、その基本となる「幾何公差とは何か?」について理解する必要があります。
設計者の皆さんであれば、当たり前のように2次元図面に幾何公差を記入しているでしょうし、進んでいる会社であれば、3次元図面にも幾何公差を記しているかもしれません。
ご存じの通り、幾何公差は「JIS規格(日本工業規格)」で標準化されています。本稿では、まず“設計の基本”に立ち返り、「JIS規格における幾何公差の取り扱い」について調べてみることから始めたいと思います。
JIS規格を調べる手段として、「機械要素JIS要覧」を用いる方法があります。会社によっては、設計室などにこの要覧が置かれているかと思いますが、JIS規格の改定を反映した最新の要覧で情報を得ることをおすすめします。また、JIS規格は「日本工業標準調査会(JISC)」のWebサイトから閲覧することも可能です。
このWebサイトの「データベース検索」−「JIS検索」の「JIS規格に使用されている単語からJISを検索」で、「幾何公差」とキーワード入力して検索([一覧表示])してみると、多くの規格番号と規格名称が表示され、中身を閲覧できます(同サイトからの印刷および購入は不可)。この一覧の中に「JIS B0021:製品の幾何特性仕様(GPS)−幾何公差表示方式− 形状、姿勢、位置及び振れの公差表示方式」という規格名称があります。ここでは、これに注目してみたいと思います。
この規格名称の中に「GPS」という言葉があります。これは一体何を意味するのでしょうか。「JIS B0021」の規格を見てみると、GPSの基本概念が次のように記されています。
GPSとは“Geometrical Product Specifications”の略語で、日本語にすると「製品の幾何特性仕様」となります。GPSは「ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)」によって規格化が進められ、その一部がJISにも反映されています。
それでは、以下のトピックを中心に話を進めていきます。
まず「幾何公差特性」という言葉に注目してみましょう。この中で使われている「幾何公差」とは、設計意図を一義的に正しく伝えるために、図面に記載する「形状」「姿勢」「位置」といった「幾何特性」の誤差の許容値を意味します。一言でいうと、幾何公差は「モノの形、大きさ、位置関係などの許容値」のことです。
この許容値を計る視点こそが、幾何特性であり、「モノの計測のやり方」であると筆者は解釈しています。また「一義的」とあるように、幾何特性の解釈は「一つの共通的な解釈」であるといえます。つまり、「寸法(寸法公差)だけでは曖昧だったもの(一義的ではないもの)を、幾何特性(幾何公差)によって、一義的な解釈ができるものにしなさい」というのが“GPSの考え方”です。
この考え方は欧米諸国の先行的な普及によって、グローバルスタンダード化しています。これに日本が追従しなければ、置いていかれてしまうどころか、「日本国内で海外の図面が解釈できない」「日本で描かれた図面が海外で通用しなくなってしまう」といった事態に陥りかねません。筆者は、既にそうした事態が起こりつつあるという可能性や懸念から、GPSがJISに反映されたのだと考えます。
この大きな変化を示すJIS規格があります。
この規格は2016年3月22日に策定されたもので、次のような説明があります。
この規格は2010年に第1版として発行されたISO 14405-1を基に、技術的内容を変更して作成した日本工業規格であるが、従来、日本工業規格で規定されていた用語を一部見直した。
この内容を確認してみると、寸法の公差表示方式を標準化したものであることが分かります。
この規格では規格の適用範囲として、「円筒および相対する平行二平面の2つのサイズ形体の長さに関わるサイズに対する標準指定演算子ならびに特別指定演算子について規定する」「これらの長さに関わるサイズのための指定条件およびその図示方法について規定する」と記述されていますが、これだけを読んで理解するのは難しいでしょう。
では、以下の疑問点を次ページで整理していきましょう。
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