IoTはブロックチェーンの課題を解決する手段として注目されている。その理由は、データの“入り口”となる入力作業がIoT機器により自動化されるからだ。
例えば、人間が検査データをシステムに入力する場合を考えてみよう。多くの場合、通常とは明らかに違う「漏れ値」や、あり得ない数値の「異常値」などは人間の“経験値”よって切り捨てて調整される。こうした行為が日常化し、母数不足となってしまうような検査基準を満たさない都合のよいデータしか見なくなるのがデータ改ざんの根源だ。
前編で紹介した食肉流通のトレーサビリティー管理を考えてほしい。最初に肉の種類(国産牛/輸入牛)を入力する場合、人手であれば、改ざんや入力ミスの可能性もある。
ブロックチェーンが保証するのは、あくまでもブロックチェーンに登録された情報だ。入力された情報自体が間違っていれば、元も子もない。現在はデータの中継者となる「人間の公正性(データを正しく入力したか)」を客観的に担保する仕組みがなく、その確認作業も人間が実施している。
しかし、データ入力の入り口をIoTにすれば、データは自動的に収集され、改ざんもできなくなる。つまり、人手による入力機会を排除することで、改ざん自体ができないようなシステムを構築できる可能性が高まる。
その際に利用されるIoT機器は、データを送信するだけのセンサーではなく、秘密鍵を持たせてセンサーデータを暗号化し、電子署名を付与する機能を有している必要がある。これは、データの内容が改ざんされていないことを担保するためだ。そして、ブロックチェーンに参加している許可された利用者に公開鍵を渡せば、“元データ”まで確認できる。こうしたシステムを確立すれば、「信頼度」を後工程にも波及させられるというわけだ。
また、保守や維持管理のためにデータ駆動型のサービスが提供できれば、顧客満足度の向上も期待できる。これらのデータは、製品改良や新たなサービスを創出する“原動力”となる。近年注目されている走行距離や運転技術の巧拙で保険料が変動する「テレマティクス保険」への適用などもその一例だ。この場合、収集されたデータに改ざんがないことが大前提になる。こうした事例は、今後も増加していくだろう
とはいえ、実際にIoT+ブロックチェーンのシステムを構築、運用するには、多くの課題がある。その1つが「IoT機器のリソース」に関する課題だ。収集したデータを、全て中央サーバに送信すると膨大な通信量となる。こうしたケースでは、データ収集場所に近いエッジ側で適切にデータを処理するエッジコンピューティングを行うのが一般的だ。では、その通信費やエッジコンピューティングに関わる費用は誰が負担するのか。エッジコンピューティングに用いるハードウェアの性能が貧弱だった場合には、レイテンシ(処理遅延)も予想される。その場合の対策はどうするのか。現状において、これらの課題を解決する道筋が定まっているとはいい難い。
さらに、現時点でIoT機器とブロックチェーンを連携させるには、鍵管理やキャパシティ管理など、高度な運用ノウハウが検討も含めて必要だ。動作可能なプロダクトや実施可能な方法も限られている。また、現実問題として、仮想通貨以外の用途におけるブロックチェーンの運用自体が実証実験の段階にとどまっている。確実に機能しているかは今後の検証が必要であり、ソリューションの開発が進められている段階なのだ。
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