では、今後、製造業でブロックチェーンが普及するためには、どのような課題を克服すべきなのだろうか。
実は、ブロックチェーン普及に向けた課題は、技術面よりも、「投資に見合うだけのリターンがあるのか」というコスト面の方が大きい。ブロックチェーン導入の第一歩は「データ資産の棚卸し」だ。「どの情報をどこまで公開するか」といった業務設計を行い、スマートコントラクトやアクセスライブラリの開発を行う。そうして得られるのは、「データの信頼性」であり、ブロックチェーン参加企業全体でデータの信頼性を担保できる環境が生まれる。
誤解を恐れずにいえば、ブロックチェーンは利益を生むための技術ではない。そこにどれだけの投資をするのかは経営判断である。そして、(前編でも言及したが)ブロックチェーンの可能性を理解している経営層は少ない。
もう1つは、「企業がどこまでデータを公開/共有するか」は各企業に委ねられており、明確な線引きがないことだ。現時点で公開している検査データは、ブロックチェーン上に公開しても企業の利益を損ねることはないだろう。しかし、「品質向上に役立てられる独自の稼働データ」を、競合他社が参加しているかもしれないブロックチェーン上に公開することは考えにくい。こうしたデータ公開の判断は、その後のビジネス戦略に大きく関わってくる。業務設計の段階で正しく見極めなければ、思わぬ失敗を招きかねない。
ブロックチェーンは、データの信ぴょう性と透明性を客観的に担保する仕組みだ。ブロックチェーン上にデータを公開することで、高品質の製品を提供する企業であるという「ブランド価値」を証明し、健全な経営をアピールするための“道具”としては有用なプラットフォームになる。しかし、それだけでは、導入の決定打にはならないだろう。ビジネスの課題解決にブロックチェーンが役立つかを検討することも重要だ。今後はブロックチェーンの導入ができる人材の育成なども含め、その理解を深めていくことが重要になるのではないだろうか。
唐澤 光彦(からさわ みつひこ) NTTテクノクロス エンタープライズ事業部 マネージャー
2016年からブロックチェーン関連の開発業務に就き、ブロックチェーン可視化パッケージ「ContractGate/Monitor」の企画・製品化・プロモーションを担当。ブロックチェーンの仕組みや事例を解説するセミナーなどにも登壇している。入社当時からセキュリティ関連部署に属し、プログラム開発やシステムエンジニア業務を経験の後、製品企画や製品化、プロモーション活動に従事してきた。これまでに、特権ID管理ソリューションの「iDoperation」、IT資産管理ソリューションの「iTAssetEye」の製品化・立ち上げに携わっている。
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