製造業のサイバーセキュリティ対策の重要性が高まる中、その最高責任者である「CISO」の役割も急速に変化しているようです。これからのCISOには何が求められるのでしょうか。
デジタルトランスフォーメーションの波が産業部門を席巻する中、サイバーセキュリティの重要性は日々高まっています。近年、日本の産業界では重大なサイバーインシデントが相次いでおり、日本を含むグローバルでの事業運営に影響が及ぶなど、サプライチェーン全体のセキュリティリスクが顕在化しています。
Netskopeの調査によると、産業部門のCISO(最高情報セキュリティ責任者)の60%が「自身の役割が急速に変化している」と報告しています。この数字は全業界平均の65%やフィナンシャルセクターの80%と比べるとやや低いものの、産業部門のCISOが大きな転換期を迎えていることを示しています。
特筆すべきは、産業部門のCISOの約3分の2に当たる63%が「将来的にビジネスの推進により積極的な役割を果たしたい」と考えていることです。この数字は全業界平均の67%に近く、CISOが純粋な技術的役割を超えて、ビジネス戦略の不可欠な一部となることを目指していることを示しています。
しかし、調査ではCISOの役割の変化に関して、CISOと他の経営幹部との間に深刻な理解のギャップが存在することも明らかになりました。産業部門のCISOの61%が「他の経営幹部はCISOがイノベーションを促進する役割を果たせることを理解していない」と考えています。
さらに懸念されるのは、産業部門のCISOの91%が「リスクへの対処方法に関する意見の相違が経営陣の間で問題を引き起こしている」と報告していることです。これは、セキュリティリスクの評価と対応に関して、リーダーシップチーム内で共通認識が欠如していることを示しています。
他の業界と比較すると、産業部門のCISOは組織づくりにおいて異なる志向が認められます。金融や小売、医療などの業界がより開放的で柔軟な組織構造を目指す中、産業部門のCISOは今後数年間でより閉鎖的で安全な組織づくりを基本方針に据える傾向があります。
具体的には以下のような特徴が見られます。
これらの傾向は、産業部門特有の課題とリスクを反映しています。例えば、製造業や重要インフラでは、セキュリティインシデントが物理的な損害や生産停止につながる可能性があり、より慎重なアプローチが必要となります。
これらの課題に対応し、機会を生かすため、産業部門のCISOは以下の実践的なステップを検討すべきです。
産業部門のデジタル化が進む中、CISOの役割はますます重要となります。課題は、セキュリティを確保しながらイノベーションを促進することにあります。時として相反するこれらの優先事項の間で適切なバランスを見いだすことが、産業部門のCISOに託された使命です。
産業部門特有の特徴――物理的資産、運用技術システム、そして多くの場合、重要インフラとしての地位――は、このバランス取りを特に困難なものにしています。しかし、これはCISOがデジタル資産だけでなく、産業運営の基盤そのものを保護することで、その価値を示す機会でもあります。
今後、産業部門において成功するCISOには、この複雑な領域をうまくかじ取りし、セキュリティ戦略とビジネス目標の整合性を高め、リーダーシップ、そして効果的なコミュニケーションを実現し、組織全体でセキュリティ意識の文化を育成することが求められるでしょう。そうすることで、サイバー脅威から企業を守るだけでなく、デジタル化がますます進む世界において、組織がイノベーションを起こし、繁栄する道を切り開いていけます。
Netskope Japan株式会社
ソリューションエンジニアマネージャー
小林 宏光
2018年7月にNetskope入社。初期メンバーのSEとして、以後、Netskopeソリューション/製品の技術的な啓蒙とノウハウの日本市場のユーザーやパートナーへの浸透を支援している。Netskope入社以前は、チェックポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ 技術本部長、アルバネットワークス シニアコンサルタント、ジュニパーネットワークス パートナー技術本部SEマネージャなどを担当。またそれ以前にはAT&T/Lucent Technologiesにおいて通信授業者向け音声/移動体インフラSEを長年担当し、ネットワークとネットワークセキュリティに30年近く幅広い経験を持つ。1992年、大学卒業後にAT&T Japan入社。Lucent Technologies時には2年間の米国NJでの勤務を経験。
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