しかし業界の各企業の状況はまちまちなのが現状だ。すでにAI技術者を育成、あるいは獲得して体制を整えているところもあれば、これから本格的に取り組もうとしているところもある。そのため必要とする「AI技術者像」もまちまちで、言い換えればどういう人材を採用すべきか探っている……という状況だ。
一方、転職市場において「AI技術者」という人材は少ない。新しい分野であるため、すでにいずれかの企業でAI関連の仕事経験を積んでいるという人自体がいないし、いたとしてもその企業にとっても貴重な人材で、転職市場には出てこないというわけだ。
このような「求人側、求職側」双方の事情から、自動車業界におけるAI技術者の求人は、現時点では非常に幅広くなっているという。「基本的にはソフトウェア系の技術者ということになりますが、大学や大学院でAI分野の研究をしてきた方、AIに転用しやすい技術を持っている方、あるいは統計解析の知見がある方、大規模なデータベースを扱っていた方などが求められています。そもそも市場にAI人材が少ないことは採用側も理解しているので(AIを開発できる)素地のある人材を早めに採用して育てたいと考えている企業は多いです」(関寺氏)。
ある程度社内で育てることも想定している一方で、特定の領域の専門家を採用して、会社としてその分野を強化したいというニーズもある。そういった求人に対しては、大学院に残って研究室で研究していた方や、研究機関で研究していた方がマッチするケースも増えているという。「研究者はビジネス感覚がないという見方もありますが、逆に知見としては非常に深い。研究者の中には、その分野をもっと深めていきたいという意向もありつつ、自分の研究を世の中に出したい、実生活に役立つ形にしたいという思いを持っている方も多いのです」(関寺氏)。
しかし、研究という視点でやりたいこと、目指すことと、ビジネスとして会社でできることにはギャップがある。特に自動車は人の生死に関わるので、実現可能なものが全て搭載できるとは限らない。「優秀な研究者であればあるほど、おそらくギャップを感じると思います。会社で仕事をしていくには、できることの中で自分を生かすという風に発想を転換するのがコツ」と関寺氏はアドバイスする。
繰り返しになるが、今の自動車業界はAI技術者が欠かせない。業界内、異業界を問わず、またAIそのものの経験はなくてもこれからAIで頑張っていきたい人にも、研究者だった人にも門戸は開かれている。
オートモーティブ・ジョブズのデータによれば、AI関連の求人件数は、2016年を基準にすると2017年は約3倍、2018年は約6倍に増加している。業界自体が進んでいる方向と、今後の可能性を考えれば、この増加傾向はしばらく続くと見て間違いない。
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