ここまで見てきたように、IoT基盤は数多くのソリューションやサービスが乱立している状況で、どの領域で使用するのかという見定めが難しい状態が生まれている。その中でどのプラットフォームを採用するのかというのは問題だ。ただ一方で、ベンダーが固定化され、求めるサービスを得るために他のベンダーへ移行するのが難しくなるのは多くの製造業にとって避けたいところだ。
こうした中で2018年に見えてきたのは、「囲い込み」をできる限り低減させていこうという動きである。そもそも、工場にはさまざまな機器やシステムが存在しそれを一元的にデータ収集するのが難しいとしてきた状況がある。これにさらにプラットフォームでの囲い込みが発生すると状況は混迷を極めるばかりだ。
逆にプラットフォーム側で考えても、より多くの情報を一元的に集めて活用することが本質的な利点であることを考えれば、入手できる情報を制限する囲い込みの動きはマイナスに働く。そこでプラットフォームはプラットフォームの利点を訴えつつ、集めるデータはそれぞれで相互活用できるようにしようという動きが本格的に広がりつつある。
象徴的な動きの1つが、経済産業省が旗を振って進め、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)などが関わってまとめた、CIOF(Connected Industries Open Framework)がある。これは製造プラットフォームオープン連携事業として進められたもので、先述した「FIELD system」や「エッジクロス」、DMG森精機が展開する「ADAMOS」などを連携させるというものである。
具体的には共通辞書を策定し、そこを参照することでそれぞれの動作や作業などを定義し、プラットフォーム間でのデータの連携などを容易に行えるようにする仕組みを作った。2018年12月にはその基本要件仕様がIVIから公開されており、2019年には実際にこの枠組みを活用できるようになる見込みである。
IVI 理事長の西岡靖之氏は「CIOFは、あらゆるプラットフォーム間連携を想定して作ったものであり、FIELD systemやエッジクロス、ADAMOS以外のプラットフォームとの連携を行うときにも役立つ」と述べている。
その他にもプラットフォームや収集基盤などによらずにデータの流通や活用ができる仕組みづくりが各所で検討されており、データをベンダーが囲い込むという点については将来的には恐れずにすむようになりそうだ。
プラットフォームとはレイヤーが異なるが、異なる環境やシステムで固定化されることを解決する動きは、産業用ネットワークの領域でも進んでいる。象徴的なのが「TSN」の実用化である。
TSNは「Time Sensitive Networking」を指し、イーサネットをベースにしながら時間の同期性を保証し、リアルタイム性を確保できるようにしたネットワーク規格である。IEEEなどの国際標準規格を複数組み合わせる形で実現している。時刻同期や優先的に通すデータを制御する機能などを加えることができるため、リアルタイム性の確保が特徴だとされている。
このTSNが現在、注目を集めているのは、現場の異種環境差を吸収するという点からである。従来の産業用ネットワークは配線や機器などがそれぞれ必要で、同一ネットワーク上でそれぞれを混在させることはできなかった。そのため、複数ネットワークを同期させるなど、一元管理する必要があるときなどには大きな負担となっていた。
しかし、TSN対応とすることで、同一ネットワーク環境内で、それぞれのネットワークプロトコルの情報が通る時間を規定できるようになる。そのため、同じ回線で、複数の産業用ネットワークプロトコルや、監視カメラなどでも使われるTCP/IPなどのITネットワークの情報を通すことができるようになるのである。
2018年11月にはCC-Link協会がTSN対応を行った「CC-Link IE TSN」を発表した他、OPC UAなど各種産業用ネットワーク団体などもTSN対応を進める動きを示し、こうした異種環境を問題なく解決しデータを活用できる仕組みは、さまざまなレイヤーで進んできている※)。
※)関連記事:TSN対応のCC-Linkが登場へ、時分割で異種環境差を吸収しスマート工場化を加速
IoTやデータ活用の枠組みに乗せる以上、1社だけでは価値を実現できず、複数の企業や団体などとの協業が必要になる。これらを解決すべきプラットフォームが、囲い込みに進むのは到底受け入れられるものではないため、自然な流れとして、プラットフォーム間連携は進んでいくだろう。
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