住友ゴム工業は、ドイツのライプニッツ高分子研究所との共同研究により、ゴム破壊の原因となるゴム内部の「ボイド」と呼ばれる空隙について、その発生からゴムのき裂発生に至るまでのメカニズムを解明したと発表した。
住友ゴム工業(以下、住友ゴム)は2019年1月9日、ドイツのライプニッツ高分子研究所との共同研究により、ゴム破壊の原因となるゴム内部の「ボイド」と呼ばれる空隙について、その発生からゴムのき裂発生に至るまでのメカニズムを解明したと発表した。この研究成果により、従来と比べて優れた耐摩耗性能を持つゴムの開発が可能になり、より性能が持続させられる高性能タイヤの開発につなげられるとしている。
今回の研究では、実際の合成ゴムを用いた2種類の実験から、ゴム内部の力学的挙動を観察した。1つ目の実験では、円板状の金属プレートと接着させた同形状の合成ゴム試験体を、金属プレート接触面の垂直方向に引っ張ることで、ゴム試験体を変形させた際の力と体積変化の関係を観察。この合成ゴム試験体に対するコンピュータ断層撮影(CT)を行い、ゴム内部のボイドの成長も観察した。
この合成ゴム試験体を、金属プレート接触面の垂直方向に引っ張ると、ゴムの性質により幅方向(半径方向)に収縮しようとする。しかし、金属プレートに接着されているため、金属と接している部分のゴムが剥がれない限り、幅方向に縮むことができない。その結果、ゴム自体が膨張することとなり、CTでゴム内部を観察した結果、ボイドの発生が確認できたという。
また、合成ゴムのうち充填剤ありの場合は、シリカやカーボンブラックの凝集物間からゴムの破壊が発生した。一方、充填剤なしの場合は、ゴム分子の滑りによるボイド形成からゴムの破壊が発生しており、条件によってボイド発生の経緯が異なることも明らかにななった。
2つ目の実験では、切り込みの入った平面な合成ゴム試験体を平面方向に引っ張った場合の切り込み部分について、X線小角散乱を用いてゴム内部のボイドの成長を観察した。
その結果、平面な合成ゴム試験体の切り込み部分を、X線小角散乱でゴム内部密度を測定した結果、切り込み先端部分は他の部分よりゴム密度が低い(ゴム内部でボイドが多く発生している)ことが分かった。これにより、平面なゴム試験体を平面方向に引っ張った場合、切り込み先端部分にボイドが存在すること、ゴムの破断にはボイドが関与することが解明されたとする。
これらの実験結果から、ゴムの粘弾性をコントロールすることで、従来よりも破壊されにくいゴム、高い耐摩耗性能を持ったゴムの開発につなげられるという。
タイヤの摩耗現象の一因であるゴムの破壊は、ゴム内部の分子切断やボイド形成によるき裂の成長によるものと考えられてきたが、明確には解明できていなかった。住友ゴムは、合成ゴムにおけるボイドの発生観察に取り組み、2015年に新材料開発技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN」を活用してボイドの発生を構造シミュレーションで解明し、その発生を抑える技術を確立している。
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