航空、宇宙関係の技術を紹介する展示会「国際航空宇宙展2018東京」では、最新の航空機製造技術に関するセミナーが開催された。三菱重工業と川崎重工業の最新の航空機製造についての講演内容をお伝えする。
航空、宇宙関係の技術を紹介する展示会「国際航空宇宙展2018東京」(2018年11月28〜30日、東京ビッグサイト)では、最新の航空機製造技術に関するセミナーが開催された。三菱重工業(三菱重工) 民間機セグメント民間機事業部組み立て工作部部長の増田浩隆氏による講演「M-PAL、MHI777X製造ラインに採用された先進的な航空機製造手法」と、川崎重工業(川崎重工) 航空宇宙システムカンパニー 生産本部 生産企画部部長の田村純一氏による講演「川崎重工における航空機生産技術」の内容を紹介する。
増田氏は三菱重工の大型民間機胴体パネルの組み立てラインに導入した先進技術を説明した。同社における民間機のティア1事業では、ボーイング社、エアバス社、ボンバルディア社に対して胴体、主翼部分などの部品を提供している。製造拠点は国内では広島、名古屋、神戸、松阪などで、海外ではカナダのトロントやベトナムのハノイなどに工場を構えている。
従来の胴体パネル製造では、労働集約型の作業が中心となっていたが、競争力をさらに強化することを目指し、ボーイング777Xの開発をきっかけとして、生産工法の革新に挑戦することにしたという。「ロボット技術が高度化し、各種センサーの能力も大きく高まっている。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が実用化され始めており、こうしたものを駆使して、自動化工場を作り、統合サプライネットワークの構築を進めている。安定した品質、省人化、リードタイム短縮などを狙っている」と増田氏は述べている。
この方針のもと、部品の加工や、サブユニットの組み立てなどの自動化に取り組んでいる。このうち、大型パネルを仕上げるラインでは自動化一貫ライン、検査のインライン化などを推進。新しい生産ラインでは、熟練技能者の技能に依存せず、多種類のパネルを高精度高品質で作ることができる一貫生産ライン「M-PAL(マルチパネルパルスアセンブリライン)」を開発し導入した。
M-PALの特徴は「全種類のパネルに対応」「工程間のハンドリングを無くす」「産業用ロボット、自動打鋲機、検査装置、AIの導入」「生産工程や工程管理の標準化」「設備間のネットワーク化によるビッグデータの管理」などにあるという。
M-PALのライン構成は、作業ステーションが13(工程)あり、大きく分けると以下の4つの流れで行われている。
M-PALにより新たに取り組んだのが、オートリベッターのインライン化である。これまでは、オートリベッターは工場の一角に設置されており、そこに固定式冶具で作ったパネルを運び打鋲していた。「作業の流れに無駄が生じていたので、新ラインでは同リベッターを中心にして構成することを考えた」(増田氏)。
自動化をサポートするための移動式冶具、コンベヤーシステムを用いて、ハンドリング作業を効率化した。また、内部骨格の打鋲工程で胴体パネル内面側に取り付けて骨格部品を打鋲するオートリベッターもライン内に組み込んだ。さらにICタグにより、対象となる作業プログラムがダウンロードできる仕組みなども構築したという。
産業用ロボットの導入に関しては、胴体パネルを吸着した状態で円周方向にも移動できるロボットハンドリングシステムを適用した。1枚の胴体パネルを2台のロボットで吸着してハンドリングを行っている。また、パネル形状自動検査システムも導入した。このシステムでは3次元写真計測器を持ったロボットが自動計測を行うことで、作業効率の向上と、組み立て精度を数値化しデータを蓄積することで品質向上などにつなげている。その他、外観自動検査やIoTを活用した統合監視システムの導入も進めている。
M-PALは既に実機の生産を行っており、2018年2月にはこのラインで組み立てた初号機がボーイング社に収められている。今後は、能力向上、量産対応に向けて自動化適用範囲の拡大、人材育成などへの取り組みを進める方針だ。
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