佐賀工場を直轄するCNS社は、同工場をはじめとする自社のモノづくりノウハウとIoT(モノのインターネット)を融合した課題発見型アプローチに基づく取り組みを進めている。パナソニック CNS社 製造・調達・ロジスティクス担当 モノづくりソリューション統括でモノづくりイノベーション推進室 課長を務める一力和一氏は「IoTセンサーを付けていろいろやったが、面白いけど何の役に立つか分からないことも多かったという話をよく聞く。やはり、課題を解決しなければ意味がない」と語り、生産現場にはデータが山ほどある一方で、全く有効活用できていない実情を指摘する。
実際に、電子機器の基板ラインの例として、工場で発生するデータが3TBあるのに対し、実際に出力/記録しているデータは100分の1以下の26GBで、活用しているデータに至ってはその30分の1以下の0.8GBにすぎないという。一力氏は「データそのものに意味はなく、インフォメーションにしなければならない。インフォメーションにすることで、人や設備に渡して、意味あるサイクルを回せるようになる」と述べる。
工場生産で良く語られるのが熟練作業者の高い効率だ。一力氏は、佐賀工場I棟の実装ラインを例に挙げ、設備データ分析と7mの高さの天井から撮影しているカメラ画像を用いた動線分析の両方で、熟練作業者の効率の高さが“インフォメーション”として裏付けられことを紹介した。設備データ分析では、ほぼ同じ条件の生産計画において、通常作業者のライン稼働率が67%にとどまったのに対して、熟練作業者は88%を達成していたことが分かった。動線分析のヒートマップからも、通常作業者が画像検査機やリール交換場所で滞留があるのに対し、熟練作業者はライン内を満遍なく循環していた。
パナソニックは、システムキッチンや洋式トイレの設計などに用いるためデジタルヒューマン技術を開発している。「トイレは、トイレを売っているのではなく、快適に排せつを行えるコトを売っている。であれば、人の感じるユーザビリティや感性価値を科学的に追及しなければならない」(一力氏)。
このデジタルヒューマン技術を用いたシミュレーションは工場内の作業効率化にも生かされている。例えば、梱包設計の差異による身体負担の計測や、佐賀工場内の説明書キッティング作業に用いている作業の可視化とポカヨケなどだ。一力氏は「人は絶対にミスをする。このミスをどうやってシステムでカバーできるかが重要だ」と強調する。
なお、佐賀工場はCNS社が目指す「“お役立ち”のインテグレーター」の実証実験の場として大きな価値がある。「設備やロボット中心ではなく、人と設備が共存する佐賀工場だからこそ課題を見つけやすい。課題発見=それは顧客の困りごとの解決のチャンスになる」(一力氏)という。
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