「モノ」が「モノ」だけで価値が発揮しにくい時代になる中で、どのような考え方でモノづくりを追求していくべきなのか。パナソニックの自転車製造工場「パナソニック サイクルテック柏原工場」の取り組みを紹介する。
「モノ」から「コト」へのサービス化が進み、モノの需要が減少する際に、工場はどういう役割を果たすべきなのだろうか――。
配車サービスやシェアリングサービスなどが広がる中、モビリティ(移動)の在り方が変化してきている。こうした動きは自動車で特に注目が集まっているが、特にシェアリングサービスにおいては、自転車での動きが著しい。
「モノ」が「モノ」だけで価値が発揮しにくい時代になる中で、どのような考え方でモノづくりを追求していくべきなのか。パナソニックの自転車製造工場「パナソニック サイクルテック柏原工場」の取り組みを紹介する。
「パナソニックの自転車事業」というと、どういう印象を持つだろうか。実はパナソニックと自転車の関係は深い。もともとは、パナソニック創業者の松下幸之助氏が奉公先として出され最初に商売を覚えたのが「五代自転車店」という自転車店だったという。その後、「改良アタッチメントプラグ」でパナソニックの前身となる企業を創業後も、同氏の自転車関連用品への思い入れは強く、自転車用の「砲弾型電池ランプ」などを開発し、大きな評価を得た。
第二次世界大戦時に民需生産の中止があり自転車向け事業は一時途絶えたが、第二次世界対戦後の1951年には「輪界復帰」を宣言し、販売店網「ナショナル輪栄会」を組織。1952年には自転車の生産を開始している。自転車生産だけを見ても60年以上の歴史を持つ老舗の自転車メーカーだといえるのである。
現在の自転車市場で成長のカギを握るのは「電動アシスト自転車」となっている。電動アシスト自転車は年平均で8%も成長。2017年には64万2000台の市場となっている。さらに「国内では4割程度のシェアを獲得している」(パナソニック 執行役員 戦略事業担当 エコソリューションズ社 副社長で、パナソニックサイクルテック社長の片山栄一氏)とするなど、電動アシスト自転車市場で高い存在感を示している。
パナソニックの自転車事業は国内が中心となっているが、国内の自転車市場は減少傾向にある。2000年代前半には年間1100万台市場となっていたのが2018年には700万台の市場見込みである。2011年にはまだ1060万台の市場があったことを考えると、7年間で300万台もの市場がなくなったことになる。サイクルシェアリングサービスが現在大きく成長し、さらに広がることを考えると、自転車の販売台数は今後もさらに減少することが予測される。
その中で自転車事業のかじ取りにはどういうことが必要になるだろうか。片山氏は「事業運営の効率化を進めつつ、新しい取り組みが必要だ」と強調する。具体的には、以下の4つのポイントで取り組みを進める。
「市場創造への挑戦」としては、衰退市場の中で大きな伸びを示している電動アシスト自転車のさらなる新規市場開拓への取り組みを進める。従来は安全安心などを切り口に主婦層や高齢者層などに普及を進めてきたが、新体験や感動をもたらす新たな提案を進めていく。
片山氏は「自転車を漕ぐのが大変だから楽にするということだけでなく、自転車の楽しみを広げる提案などを進めていく」と方向性について述べる。その具体的な取り組みの1つとして、電動アシストマウンテンバイクの「Xシリーズ」を挙げる。その他、「クルマとの共生や『つながる自転車』に向けた取り組みも強化していく。社会インフラとしての役割についても考えていく」と片山氏は語る。
また、「匠の技」については、スポーツタイプの自転車を中心にオーダーメイド製品を匠の技術で提供する「パナソニックオーダーシステム(POS)」の提案拡大に取り組む方針だ。これは、ステップに沿ってサイズやパーツを選ぶ「カスタムオーダー」と1mm刻みのサイズ、細かな角度を指定する「フレームフルオーダー」の2種類が選べるが、それぞれに最適な“あなただけの商品”を注文に合わせて受注生産するというシステムである。選ばれた専門の匠の技術者が、全ての工程を担当し、高い信頼性の一品製品を作り上げる。
これらのポイントになっているのが、自転車の主力工場である「パナソニックサイクルテック柏原工場」である。
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