「ものづくり白書」に見る、日本の製造業が持つべき4つの危機感ものづくり白書2018を読み解く(前編)(2/4 ページ)

» 2018年10月31日 10時00分 公開
[翁長 潤MONOist]

強い現場力の維持と向上

 ものづくり白書によると、日本経済は安倍内閣の経済政策「アベノミクス」の効果が現れる中で、着実に上向いてきたという。製造業企業を中心に収益の改善が見られ、雇用の拡大や賃金の上昇につなげることにより、経済の好循環が生まれ始めている。ものづくり企業の業績に関連して、経済産業省が2017年12月に実施したアンケート調査によると、1年前と比べた業績は売上高、営業利益ともに増加傾向にある。規模別では、売上高および営業利益ともに、大企業の方が中小企業よりも業績が増加傾向にある。

 一方で、人手不足の深刻化などの課題も浮き彫りになってきている。

 日本製造業が直面する主要課題を大別すると、人手不足が深刻化する中での「現場力の維持と強化」と、データ資源を活用したソリューション展開による「付加価値の創出と最大化」の2つが存在すると説明する。中でも、現状での人手不足の深刻化が明らかになりつつある中では、「強い現場力」の維持と向上をどのように図っていくかが主要な課題の1つとなってきているという。

 人材確保は、今は日本の製造業が避けては通れない深刻な課題となっている。2017年末のアンケート調査において人材確保の状況に関して尋ねたところ、2016年末調査と比較して「特に課題はない」とする回答が約19%から約6%に大幅減少した。その一方、「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」との回答が約23%から約32%に大幅増加し、人材確保の課題がさらに顕在化、深刻な課題となっている(図1)。

photo 図1:人材確保の状況(クリックで拡大)出典:2018年版ものづくり白書

人材不足対応は変化の兆し

 アンケート調査において、現在行っている人材不足対応としては「新卒採用の強化」に最も力を入れて取り組んでいる企業が多く、若手人材の確保と育成に重点を置いているといえる。今後最も力を入れていきたい取り組みとしては、現在と同様に「新卒採用の強化」が特に重視されており、取り急ぎ人材確保に高い関心が集まっている。

 その一方で、現在から今後の変化に着目すると「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」や「IT・IoT・ビッグデータ・AIなどの活用による生産工程の合理化」が大幅に増加しており、今後はロボットやIT、IoTなどを活用した省人化や合理化に取り組みの重点が移ることが見込まれている。

 今後の取り組みとしては、大企業では、現在の取り組みと比較して「新卒採用の強化」が大幅に減少し、「IT・IoT・ビッグデータ・AIなどの活用による生産工程の合理化」および「多様で柔軟な働き方の導入」が顕著に増加。今後は、IoTやAIなどの積極活用や働き方改革への意欲の向上を志向する傾向が見て取れる。

 中小企業では「社内のシニア、ベテラン人材の継続確保」が減少、「自動機やロボットの導入による自動化と省人化」の増加が顕著。中小企業が、今後の取り組みとして、まず自動機やロボットの導入による自動化を目指していることが分かる。

 対して、大企業は自動化の取り組みが一服した後の次のステップとして、ITやIoTなどの活用による生産工程の合理化を推し進めようとしている姿が見て取れる。さらに今後は、企業規模を問わず、人事制度の抜本的見直しや待遇の強化、HRテックなどのテクノロジーを活用した人材マネジメントなども増加幅が大きい。2018年版ものづくり白書では、企業規模問わず、働き方改革の意識の高まりが垣間見ることができて興味深いと述べている(図2)。

photo 図2:人材確保対策において最も重視している取り組み(規模別)(クリックで拡大)出典:2018年版ものづくり白書

 大企業を中心に今後の人手確保の取り組みとして、ITやIoTなどの活用による生産工程の合理化などの傾向が強まる一方で、これらを実現していくためには、ITやIoTなどのデジタル技術を利用できる人材を確保できていることが大前提となる。

 情報処理推進機構(IPA)が実施した調査によると、IT企業のIT人材についても「量」と「質」に対する不足感が顕著である。製造業に限らず、日本全体でデジタル人材が不足している現状が見て取れる。

 2017年末の経済産業省調査において、デジタル人材が不要と考えた企業にその理由を尋ねたところ、「費用対効果が見込めない」「自社の業務に付加価値をもたらすとは思えない」という回答が大半を占め、自社にとってプラス効果につながらないと感じている傾向が出ており、ミスマッチが生じている。

現場力を維持、向上していく中での強みと課題

 こうした人材確保の課題が顕在化する中でも、現場力の維持と向上を図り、デジタル時代の中で多様化する顧客ニーズに応じた製品やサービスを展開していくことが求められている。現場力を維持と向上に取り組むには、従来の日本製造業の強みをさらに伸ばしていくことや、弱みと課題を克服していくことなど、さまざまな組み合わせによる対応があると考えられると説く。

 製造の現場力の強みであるという回答が多かった項目は、「ニーズ対応力」「試作・小ロット生産」「品質管理」「短納期生産」などであった(図3)。

photo 図3:製造の現場力の強み(左)、製造の現場力の維持・向上に関する課題(右)(クリックで拡大)出典:2018年版ものづくり白書

 一方で、課題と考えられている項目としては、「熟練技能者の技能(継承)」が圧倒的に多かった。また、項目ごとの「課題」と「強み」との差に着目すると、「ロボットやIT、IoTの導入、活用力」や「ロボットやIT、IoT以外の先端技術の導入、活用力」の差が特に大きく、今後、課題克服に向けた取り組みが特に期待される。

 最も大きな課題とされた「熟練技能者の技能(継承)」については、長年の経験と勘に頼った細かな仕様の対応や技能工による微細な加工調整など、それぞれの現場力の強みを支えているノウハウが属人化している点が問題視されている。一方で、適切な後継者が育っておらず、“組織的な知の構築”ができていないことが課題となっていると指摘している。

 熟練技能者の技能継承の解決をはじめさまざまな課題に対し、ロボットやIoTやAIなどのデジタル機器の導入、活用で解決したいところだが、現状では確立したノウハウがあるわけではなく、手探り状況であるといえる。

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