日本のものづくり企業は、経済危機、技術革新など自社だけでは対応できない幾多のマクロ環境の変化にさらされ、多くの困難に直面し、それらを乗り込えてきた歴史がある。
今後も競争力を維持し、持続的に発展していくためには、こうした過去の大きな変化への対応からもヒントを得つつ、引き続き今後の内外の環境変化や潮流などに適応し、これまの強みを生かして新たなものづくりを模索する必要がある。
帝国データバンク「“老舗”に関するアンケート」(2008年3月)によると、明治期創業の長寿企業がこれまでに変えていないこと、変えたことに関する質問に対して、創業時から変更した(一部、もしくは全てを変更した)と回答した企業の割合は、「販売方法」が78.7%と最も多く、次いで「商品、サービス」が72.4%、「主力事業の内容」が56.3%、「製造方法」が55.3%と続き、これらについては半数以上の企業が変更したと回答している。一方、「家訓、社訓、社是など」を創業時から変更したと回答した企業は27.8%と低い結果となっている(図5)。
長寿企業は、企業の経営方針の根幹をなし、精神的なよりどころとなる「家訓、社訓、社是など」は守りつつも、顧客ニーズや時代の変化に合わせた製品やサービスを提供し続ける中で事業を変化させている。
長寿企業においては、コア技術などの自社がこれまで培ってきた強みを生かしながら新製品やサービスを提供することで、新たな顧客価値を提供している点が共通項としてあげられる。
事業を変化させることは大きなチャンスであると同時にリスクでもあるが、これまでの長期に渡る事業活動の中で培われた強みを最大限生かすことで、変化に伴うリスクを軽減させ、新たなビジネスチャンスにつなげているものと考えられる。
デジタル化やIoTの進展、AIの登場や普及に伴う第4次産業革命が到来し、製造業を取り巻く大規模な環境変化、地殻変動が生じている。こうした状況では、経営者が危機感を共通認識として自覚して変革に対応していくことが求められる。
また、大きな変革期を認識し、従来の強みだけに固執することなく、新たなスキルを有する人材確保や非連続的な変革を実施していく必要がある。後編では、主要課題としてあげられる「人手不足の中での現場力の維持・強化」や「付加価値の獲得」を経営主導で実施していくための対応策を紹介する。
翁長潤(おなが じゅん)
フリーライター。証券系システムエンジニア、IT系雑誌および書籍編集、IT系Webメディアの編集記者の経験を生かし、主にIT・金融分野などで執筆している。
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