東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年、新しいロボットイベント「World Robot Summit(WRS)」が開催される。本連載では、このWRSについて、関係者へのインタビューなどを通し、全体像を明らかにしていく。第2回は4つある競技カテゴリーのうち、「サービス」部門と「ジュニア」部門の2つについて説明する。
「World Robot Summit(WRS)」は、日本が国として主催する全く新しいロボットイベントである。開催の背景や全体像を解説した第1回に続いて、本連載の第2回と第3回では、プレ大会となる「WRS2018」で行われるロボット競技会の4つのカテゴリーについて、それぞれ詳しく見ていくことにしたい。今回は「サービス」部門と「ジュニア」部門の2つについて説明する。
日常生活が対象のサービス部門は「パートナーロボットチャレンジ」と「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」という、2つの競技で構成される。まずは、パートナーロボットチャレンジについて、サービス部門の競技委員長である岡田浩之氏(ロボカップ日本委員会 専務理事/玉川大学 工学部 情報通信工学科 教授)に話を伺った。
パートナーロボットチャレンジは、家庭環境を想定した競技になる。参加者は、まず2つの技術課題に挑む。「あれ、取ってきて(Bring Me)」は、オペレーターが指示したモノを部屋の中から探し、持ってくるタスク。「お願い、部屋を片付けて(Tidy Up Here)」は、散らかっているモノを所定の場所まで戻すタスクだ。
そして、2つのタスクの合計点で上位50%のチームのみ、ファイナル競技の「ロボットと暮らす未来を見せて(Show me the Future)」に進出できる。これはデモ競技となっており、何をするかは各チームの自由。ただし、将来のバリアフリーがコンセプトのため、何らかの不自由さを持った人を助ける必要がある。
ロボットの競技会というと、ロボット本体から開発する場合が多いが、パートナーロボットチャレンジでは、トヨタ自動車の生活支援ロボット「HSR」をプラットフォームとして採用。ハードウェアは共通なので、ソフトウェアの違いで勝負が決まることになる。
パートナーロボットチャレンジは、「人間とロボットの協働がテーマ」だという。ロボットは基本的に自律で動作するが、人間からの指示を受けながら、タスクをこなしていく。岡田氏は、「人間だけでもロボットだけでも満点にはできない。協働して初めて100点になるように考えた」と狙いを説明する。
家庭環境を想定したロボット競技というと、「RoboCup」の@ホームリーグが思い浮かぶ。岡田氏自身、RoboCupに出場する玉川大学のチームを指導しており、世界大会での優勝経験もあるのだが、RoboCupとの違いについては、「RoboCupは技術を競うが、パートナーロボットチャレンジはサービスを競う」と述べる。
RoboCupはアカデミア寄りのため、将来を見据えた難易度の高い課題に新技術で挑む。しかしWRSは、第1回でも説明したように、社会実装の加速が大きな目的。技術は重要な要素ではあるものの、明確に「手段」という位置付けになる。だから、現在既に使える技術を組み合わせて、新たなサービスを実現するというアプローチでも良いわけだ。
以上は実際のロボットを使う「リアルスペース」リーグの内容であるが、面白いのは、ロボットを使わない「バーチャルスペース」リーグまで用意されていることだ。
バーチャルスペースリーグも、3つの技術課題に挑戦したあとで、上位半分が決勝のデモ競技に進出するというスタイル。ユニークなのは、たとえバーチャル競技であっても、「協働」が一貫したテーマであるということだ。そのため、人間がアバターとなり、仮想空間内に入り込んで、ロボットに指示を出したりするようになっている。
バーチャル競技を用意したことについて、岡田氏は「ロボットの競技会だからといって、ハードウェアが絶対に必要というわけではない」と語る。近年、AI(人工知能)技術の進歩により、ロボットへの期待が高まりつつあるものの、まだまだできないことは多い。ソフトウェア技術もさらなる進歩が必要なのだ。
ソフトウェア産業の開発者人口は多い。実機が不要のバーチャル競技であれば、従来のロボット分野の開発者でなくても参入しやすい。岡田氏は、「AIやゲームなどの分野の人にもぜひ参加して欲しい」と、異業種からの参入に期待する。
なお技術課題のテーマは、「汎用目的サービスロボット」「インタラクティブ清掃」 「ヒューマンナビゲーション」の3つ。これらは「リアルより難しい」(岡田氏)とのことで、各チームがどうクリアしていくかも楽しみなところだ。
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