ポイントとなった技術は2つある。1つは高速に演算できる顔特徴抽出技術である。画像から精緻に本人を特定するためには、顔の向きや表情の変化などにも対応する高精度な特徴抽出を実現するための複雑な仕組みを構築する必要がある。しかしこれでは処理時間が増大するという課題がある。
今回は2段階でのモデル構築を行い、特徴抽出モデルの軽量化を実現していることがポイントだ。まず顔の向きや表情の変化にも対応する複雑なニューラルネットワークで学習を進める。学習を進めていくと画像中の背景情報や髪形など顔の特徴抽出とは関係のない情報などが分かるようになり、これらを削ぎ落とした特徴抽出モデルを作ることができる。その後、さらにこの特徴抽出モデルの出力を模擬する軽量モデルを学習により作り出す。これにより、処理サイズは10分の1に、処理速度は5倍にできるようになったという。
もう1つの技術が、この顔認証技術と手のひら静脈認証技術を組み合わせた生体認証融合技術である。まず、自然な動作の中でカメラから取得できる顔情報を利用して、登録されている100万人規模のデータベースの中から類似するグループに絞り込みを行う。そして、利用者が手のひらをかざすことで、絞り込んだグループから1人を迅速に特定するという使い方を想定したものである。これにより、短時間での本人認証が可能となり、実運用に近い形が作り出せたという。
これらにより利用者が意識せずに高い利便性を実現するとともに、100万人規模の手ぶら認証を実現できるようになる。さらに顔認証および手のひら静脈認証ともに非接触認証技術であるので、クリーンな認証を実現できる点も利点だという。
富士通研究所 セキュリティ研究所 主任研究員の安部登樹氏は「手のひら静脈認証技術と指紋認証技術など、他の技術の組み合わせなども考えたが、今回は非接触であるという点が利点だと考えた」と述べている。利用用途としては、ショッピングにおける手ぶら決済や、イベントやショッピングモールでの本人確認、災害時の身元確認などを想定しているという。今後実証を進め、2020年度中に実用化を目指すとしている。
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