デジタルツインを実現するCAEの真価

構造解析メインだったSIMULIA、ついに流体と電磁界へCAEニュース

ダッソー・システムズ(以下、ダッソー)は2018年10月1日、同社のCAEシステム「SIMULIA」に関する記者発表会を開催した。2016〜2018年にかけて買収したCAE技術とSIMULIAの統合、同社のクラウド基盤「3DEXPERIENCEプラットフォーム」との連携に関する進捗について説明した。

» 2018年10月02日 13時00分 公開
[小林由美MONOist]

 ダッソー・システムズ(以下、ダッソー)は2018年10月1日、同社のCAEシステム「SIMULIA」に関する記者発表会を開催した。2016〜2018年にかけて買収したCAE技術とSIMULIAの統合、同社のクラウド基盤「3DEXPERIENCEプラットフォーム」との連携に関する進捗について説明した。

 SIMULIAは「シミュレーションを自然環境や人々の生活と製品の調和のために」というテーマで開発しており、CAE(シミュレーション)ソフトウェア単体だけではなく、パートナーによるソフトウェアやハードウェアも連携させたマルチフィジックスかつマルチスケールなシミュレーションを提供する。

ポートフォリオ拡大に関して(出典:ダッソー)

 自動車業界の製品開発では部品やユニットごとではなく車両全体を対象にした解析にまで規模が及んでいる。併せて、電動化に関連した音響・騒音関連の解析、乗車する人の快適性(空調など)の評価、雨風などの自然環境下での条件を考慮したリアルな走行シミュレーションへの取り組みなども進められている。SIMULIAは、製品性能のみを評価したり、個別の物理現象だけを解析するのではなく、さまざまな分野における物理現象、対象物の形状、動作などをひっくるめて、製品や人のライフサイクル全体に及ぶ影響を見ていくものである。

 SIMULIAのビジネス方針としては以下の3つを掲げる。

  • シミュレーションポートフォリオの拡充:マルチフィジックスと包括的なアプリケーションの提供。各製品の継続的な強化。
  • インダストリープロセスの提供:顧客の課題、プロセスに基づいたアプリケーションの提供。
  • シミュレーションの新たな利用法:クラウド、VR(仮想現実)による可視化。

 SIMULIAはかつて構造解析ソフトウェアの「Abaqus」を核としてスタートし、しばらくはノンパラメトリック最適化ツール「Tosca」、疲労解析ツール「fe-safe」、自動化・最適化ツール「Isight」といった技術を買収しながら、構造解析と関連する技術を中心に拡充してきた。さらに2015年以降は、電磁界解析と流体解析(CFD)分野の買収を進めてきた。

 ダッソーは2016年にはドイツのCST(Computer Simulation Technology)、2018年には「Opera」と電磁界解析関連の企業を買収した。CSTの技術は高周波領域やEDA、EMC/EMIなど、Operaは静電場や低周波領域を得意とする。自動化や電動化が進む自動車開発では、電界・電磁界に関して幅広く細やかに分析し、車両全体を見て解決しなければならない問題が多くなる。そのようなニーズに対して、例えばCSTはADASやコネクテッドカー関連、Operaは電動ドライブやパワーエレクトロニクスに対してといったように、それぞれの強みを生かしてユーザーにツールを提供する形だ。

 流体解析関連については、2016年に「XFlow」の開発元であるNext Limit Dynamics、2017年に「PowerFLOW」のExaを買収している。共に格子ボルツマン法のCFD技術を持つ企業だ。XFlowは移動境界や二相流を含んだ広範囲なシミュレーション、マルチフィジックス/マルチスケールに対応する。PowerFLOWはクラウドに対応し、テンプレートベースのワークフローや、音場と流場が同時計算可能な流体騒音解析機能を特長とする。

 PowerFLOW独自のクラウドサービスについてはSIMULIAファミリーに加わりながらも、今後も継続して提供される。大規模になりがちな格子ボルツマン法の解析において、クラウド上の並列コンピュータのパワーを用いる仕組みを備える。またダッソーのクラウドサービスである3DEXPERIENCEプラットフォームとは別のサービスなる。3DEXPERIENCEプラットフォーム直下にもCFDシステムを備えるが、こちらは有限体積法のCFDであり、定常もしくは長時間非定常のシミュレーションを得意とする。対してXFlowとPowerFLOWは非定常解析を得意とするソフトウェアであり、スケーラビリティや、定常・非定常に応じてツールを提供する。クラウドオファリングについては、今後もSIMULIA全体で取り組みを進めていく。

SIMULIAのクラウドオファリングの概要(出典:ダッソー)

 発表会当日はPowerFLOWとVRを連携させたシステムをデモで紹介した。VRでは視覚的な体験だけではなく、PowerFLOWが得意とする流体騒音の体験もできる。SIMULIAではこのようなVR/ARによる可視化にも力を入れて取り組んでいる。

PowerFLOWとVRの連携デモ

 併せてマルチボディーシミュレーションソフトである「Simpack」によるドライブシミュレーターのデモも紹介した。アーケードゲームのようなスリリングな楽しさを追求した、誰もが操作しやすい仕組みではなく、あくまで自動車の機構の挙動を忠実に再現している仕組みである。Simpackも2014年にダッソーに買収され、SIMULIAへの統合が進められている。現状では、2019年中の提供をめどに、ダッソーのハイエンド3D CAD「CATIA」およびミッドレンジ3D CAD「SOLIDWORKS」との連携機能の開発が進められ、解析専任者頼みとならないマルチボディーシミュレーション環境の実現を目指す。

Simpackによるドライブシミュレーターデモ

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