フランスに続いて、NEDOが紹介したのが中国の動向である。NEDO 北京事務所所長の大川龍郎氏が「世界を揺るがす中国のスタートアップの動向」と題して、世界で存在感を増す中国のスタートアップ動向について説明した。2017年もこのセミナーで講演した大川氏は前回紹介した中国のベンチャー企業のここ1年間での変化などについても解説した。
中国で一段と進んでいるモバイル決済サービス市場は、直近1年間の決済額が2000兆円に達し、前年に比べ倍増しているという。海外進出も盛んでAlipay(支付宝、アリペイ)を運用する「Ant Financial(蚂蚁金服、アントファイナンシャル)」はインド、東南アジアを中心に幅広く展開している。
一方、こちらも幅広く普及するシェア自転車サービスは2016年後半から爆発的に拡大しており、海外進出も行われたが、現在は海外からの撤退が相次いでいる。国内についても最盛期は40社以上が乱立したが、2017年の後半から徐々にプラットフォーマーから撤退する企業が増加しており、ユーザーから「デポジット(1700〜5000円程度)が返金されない」などの苦情や、撤退した事業者のシェア自転車が街中・郊外に放置されるなどの問題が出ているという。
さらに、2018年4月には最大手の1つ「Mobike(摩拜单车、モバイク)」が、ネット食品出前サービスの大手「美団(メイタン)」に買収される(37億ドル相当)などの出来事があった。
ただシェア自転車サービスは既に生活に浸透しており、社会インフラとなっていることから「アリババ(阿里巴巴集団)」(アントファイナンシャルもアリババグループに含む)「ディディ(滴滴出行)」また、前出の「美団」などが中心となり、新たな出資・買収の動きがみられる。2018年以降の資金投入の特徴は「それまでの資金投入に比べて規模が大きく(1000億円単位)、投資対象企業が上位数社に絞られてきたという点だ」と大川氏は指摘する。
この、シェア自転車サービスに続いてシェアリング化で活性化しているのが「ネット出前サービス」である。市場規模は年間3億5000万元(約5.7兆円)となり、2016年には外食産業の1割以上を占めるまでになったという。ネット出前サービスのトップ3は2017年8月までは「美団」(テンセントが出資、シェア41%)「ウーラマ(餓了麼)」(アリババが出資、同35%)「バイドゥ外売(百度外売)」(18%)だった。しかし、その後ウーラマがバイドゥ外売を買収し、さらにもともとウーラマに出資していたアリババがウーラマをバイドゥ外売ごと完全子会社化するという激しい動きがあった。
このシェア自転車サービス、ネット出前サービス、それにタクシー配車を加えたモビリティサービスを巡る覇権争いについて、大川氏は「タクシー配車市場で最大のシェアをもつディディ(シェア90%)が、ネット出前市場に進出した他、シェア自転車市場にも進出。シェア自転車サービスを展開するBlue GO GO(小蓝单车、ブルーゴーゴー)の支援を開始した他、ofoにも出資した。それに対抗し、美団がネットタクシー市場に参入し、また、シェア自転車のモバイクを買収した」と最近の大きな動きを紹介した。
この他、現在、大手のアリババやTencent(腾讯、テンセント)は、自らの有力アプリの上で顧客が必要とする、全てのサービスをワンストップで提供することを目指すとしている。「これらの買収の動きにも関係するが、ワンストップサービスのためのサービス種類の拡大(ポータル争い)が活発化している」と大川氏は現状を分析する。
中国でのベンチャー投資実行額は2016年で3683件、2兆1526億円で件数は日本の3倍、金額は13倍となっているという。こうした投資で成長した中国のユニコーン企業は、ここ1年でみても大きく伸びており、米国に迫る勢いがある。ユニコーン企業の種類はB2Cビジネスが多く42社に達している。B2Bでは「サプライチェーン・ロジスティクス」や、人工知能関連企業が増加傾向にあるようだ。
投資傾向は、エンジェル投資などは減る傾向で、コアな技術を持つ企業へ堅実に投資するという方向にシフトしつつある。活発なCVCとしてはテンセント、アリババ、バイドゥなどがある。テンセントだけでも年間2000億円規模があり、この額は日本全体のベンチャー投資額の2倍に当たるという。また「有力ベンチャーの系列化が進んでおり、その結果、以前のように新たな市場に巨大なビジネスを構築することは難しくなってきている」と大川氏は中国市場を解説した。
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