理化学研究所は、気管など管腔臓器の長さと太さが決まる仕組みを明らかにした。臓器形成の基本原理に新たな視点を提供し、管腔臓器の閉塞を来す病態の理解や、再生臓器の成形技術への応用につながることが期待される。
理化学研究所は2018年7月26日、気管などの管状の臓器(管腔臓器)の長さと太さが決まる仕組みを明らかにしたと発表した。同研究所生命機能科学研究センター チームリーダーの森本充氏らと神戸大学の共同研究による成果だ。
研究チームは、マウス胎児の気管が成長するプロセスを解析した。その結果、気管は、初めは長さ方向に伸長し、その後直径が拡大するという段階的な発生過程で作られることを確認した。また、直径の拡大は、細胞増殖よりも上皮細胞の形態変化と配列再編成が主な要因であることも分かった。
次に、気管形成前期に起こる気管伸長のメカニズムを解明するため、気管形成の異常が報告されている遺伝子変異マウスを調べた。その結果、分泌タンパク質であるWnt5aとその受容体Ror2の変異マウスでは、気管が短いことを発見した。
気管の発生過程での遺伝子発現パターンを見ると、Wnt5aとRor2のどちらも上皮組織ではなく「間充織」、特に平滑筋細胞とその前駆細胞に発現していた。さらに、正常であれば円周方向に秩序正しく配列する平滑筋細胞が、遺伝子変異マウスでは無秩序に配置され収縮運動ができないことが分かった。
この異常について調べたところ、正常な平滑筋の前駆細胞は、初めはばらばらだった細胞極性が同調していき、上皮(内腔側)に向かって整列することを突き止めた。
そして「放射状細胞極性(Radial cell polarity)」と名付けたこの同調極性パターンが、細胞の整列だけではなく、平滑筋前駆細胞を上皮直下まで移動させること、細胞同士が円周方向に連結するのに必要なことも判明した。これは間充織細胞が秩序をもって集合、整列することが気管の伸長に関わっていることを示す。なお、食道についても、気管と同様のメカニズムで長さが制御されていることが分かった。
最後に、後期に起こる管腔の直径が拡大するメカニズムを調べた。ヒトの疾患では気管軟骨の異常で気道が狭窄することから、軟骨の形成に関わるSox9とCollagen 2a1遺伝子を持たない変異マウスを作製した。これらの変異マウスでは、リング状の気管軟骨が形成されず、気管の径が著しく細くなった。さらに、これらの変異マウスでは、気管内腔拡大時の上皮組織の再編成が起こらなくなっていたことから、軟骨形成が直径の拡大だけでなく、平滑な内腔面の拡大にも重要であることを確認した。
今回の研究結果から、気管を構成する平滑筋前駆細胞と軟骨細胞が、タイミングをずらして極性化と分化を起こすことで臓器の形が決定されることが示された。これは臓器形成の基本原理について新たな視点を提供するとともに、先天性気管狭窄症など管腔臓器の閉塞を来す病態の理解や、再生臓器の成形技術への応用にもつながることが期待される。
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