特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

品質保証体制を強化するためのIoT活用はどのように実践すべきか(その2)トヨタ生産方式で考えるIoT活用【実践編】(3)(2/3 ページ)

» 2018年05月09日 10時00分 公開

(2)ネットワークによる通信

 次に取得したデータを通信します。今回は有線での通信方法について説明します。まず、PLC、外付け機器、タッチパネルで取得した情報はLANケーブルを使用してイーサネット(Ethernet)で接続するのが一般的です。かつての通信速度は100Mbpsでしたが、最近は1Gbpsが主流となっています。ネットワーク機器や接続ケーブルによって対応速度が変わりますので、その点について機器選定には注意が必要です。また、1Gbpsと言っても実際の速度はかなり落ちますので通信量についてはその点の考慮も必要です。

  • ネットワークスイッチ:通常のLANケーブルは最大100mとなります。ケーブルの種類を変えると長距離接続も可能ですが、長距離になる場合はネットワークスイッチと呼ばれる機器を使用してつないでいきます。これも産業用となると最近は耐久性に優れており、接続する線の数(ポート)が多いものが増えてきています。また、最近はセキュリティ対策のため、接続するポートのデータ(パケット)を監視してウイルスなどの不良データは通さないような機器も出てきています
  • ネットワーク配線:配線についてはLANケーブルを使用して配線していきます。トレーサビリティーに必要なデータは100%収集が必要となりますので、通信経路を2種類にしておき、1箇所の通信が遮断されても迂回路を使って通信を確保する方式をとる必要があります
  • 通信プロトコル:イーサネットの通信はTCP/IPをプロトコルに用います。このプロトコルの利点は、長いデータを複数に分割して送り、受け取り側で組み立てることで、途中でデータが欠落しても再送して確実に届けます。そのため、データ送信に対する信頼性は高いです。欠点としては通信量が多くなると交通渋滞(コリジョン)を起こすため、いつまでたってもデータが届かないといったことが発生します

 最近では、MQTTプロトコルを機器接続に使用するケースが出ています。これは送信側が送るデータをデータ領域にいったん保持しながら、受信側の処理が完了するのを待たずに次の処理へ移る方式です。センサーから取得した細かいデータを取りあえず送り、受け取った側はデータを蓄積して順番に後続に流す方式となります。クラウドサービスはこの方式を基本採用しています。1秒間に100回以上の小まめな通信が必要な場合は、こちらの方が主流になりつつあります。

図2 図2 ネットワークのポイント(クリックで拡大)

(3)サーバへの蓄積

 通信したデータは次の目的で処理して、データを蓄積することになります。前回も話しましたが、目的に合わせて処理するサーバを分けて考えると分かりやすくなります。

  • リアルタイム制御用:あんどん表示やリアルタイムに生産状況を表示する目的で設備から収集したデータをすぐに処理してモニターに表示する目的のサーバ機器
  • 蓄積用:トレーサビリティーなど精度の高いデータを100%蓄積するための格納目的のサーバ機器
  • 公開用:工場で蓄積したデータを他部門で活用する目的のサーバ機器

 これまでは集中用のサーバの下に全ての設備から集めたデータを蓄積したり、モニターに生産状況を表示したりといった方式が主流でした。しかしその方式だと、工程が拡大した際にサーバ増強が必要となったり、サーバがダウンすると全ての工程の操業に影響を与えたりといったリスクが大きくなる欠点がありました。最近は、各工程のセグメントにデータを収集したり、モニターに生産状況を表示する機器を置いて分散処理する方式がとられたりするようになってきています。

 公開用については、他部門からのアクセスにより、負荷が高くなって工場の操業に影響が出ないようにするため、工場の操業用と公開用は機器を分けるといった工夫もされています。工場の操業は、少なくとも秒単位のリアルタイム性が求められますが、公開用はそこまでのリアルタイム性は要求されません。

 ただし、システム構成を設計する上で、集中方式や分散方式についてはメリット、デメリットがあるため、自社の目的に合わせて方式を決定するとよいと思います。集中式のメリットは機器類の台数が少なくなり、障害発生への対策を講じる部分が減ることです。ただし、集中した機器が故障すると全ての工程に影響が出ます。そのため、完全二重化方式をとることが多いのですが、こうするとハードウェアと信頼性確保のソフトウェアの価格が急騰します。

 分散方式をとると、リーズナブルな機器類を組み合わせるため、コストを抑えつつ障害発生時の影響範囲を最小にとどめられます。逆に、管理する機器類が多くなるので、バックアップやリカバリーの考慮が大切になってきます。

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