越える業種の壁、トライアルが目指す流通革命とパナソニックが目指す工場外自動化第4次産業革命の現在地(2/4 ページ)

» 2018年02月27日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

スマートカメラやスマートカートで実現する新たな流通の姿

 こうした狙いのもと、2018年2月13日に先進実証店舗としてオープンしたのが「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」(福岡市)である。同店舗には、新たにパナソニックの100台のスマートカメラと、トライアルカンパニーが独自で開発した600台のスマートカメラを設置。顧客の動態などを把握するとともに棚の欠品情報などを把握できるようにしている。さらにカートにレジ機能を付けた「スマートレジカート」によりレジ待ち削減の実証も併せて行っている。

photo 売り場上部に設置されたスマートカメラ群(赤丸)。それぞれ役割の異なるパナソニックのカメラとトライアルカンパニーが独自開発したカメラが設置されている。1つのカメラ当たり棚2つ分の範囲を見ているという(クリックで拡大)
photo アイランドシティ店のスマートレジカート。プリペイドカードを契約し読み取らせることで使用可能になる。レジには端末が設置され、製品のバーコードを読み取らせることで決済可能になる。最終的な個数確認などは人手で確認する(クリックで拡大)

 西川氏は「スマートカメラとスマートレジカートによって顧客の購買前行動が新たなデータとして取得できる。顧客の購買データ、売り場や棚の状況、顧客の店内行動を組み合わせて分析することで、従来見えなかった顧客の購買行動が見える。例えば、購入前にどの商品とどの商品で迷って買ったのかという点や、欲しい商品を探していて棚が欠品していてなかったために仕方なく選んだ商品であることなど、POSによる購買データだけでは見えない点が見えてくる。マーケティングそのものを大きく変えられる可能性がある」と力を込める。

photo スマートレジカートとスマートカメラによる効率化のイメージ(クリックで拡大)出典:トライアルカンパニー

カメラにより回遊率を一目で把握

 それぞれを具体的に紹介する。スマートカメラについては、パナソニックが開発したスマートカメラ100台と、トライアルカンパニーが独自開発したスマートカメラ600台を設置している。

 パナソニックのスマートカメラでは、主に顧客の動態を可視化する役割を担う。同社の「Vieureka プラットフォーム」とPUXの画像認識エンジンにより、カメラ内で来客の属性と行動分析を行い、その結果のみをクラウドに直接送信。これによりプライバシーを守りながら来客の行動の可視化・定量化を24時間可能とする。画像情報などは送信せずに全てカメラ内で、必要な購買関連情報だけを抽出して、送信するということがポイントだ。例えば「30代、女性」がどのあたりに滞留していたかなどの情報だけを送ることになる。

photophoto 店舗天井に設置されたパナソニックのスマートカメラ(左)と、個人情報を取得しないようにした認知のイメージ(右)(クリックで拡大)

 これらのスマートカメラの複数台のカメラの情報を組み合わせることで、店舗内の導線や顧客の動きなどを定量的に把握できるようになる。

photophoto 店舗内の顧客情報のダッシュボード(左)と、店舗内の地図と組み合わせ来店者を100%とした場合の顧客の回遊状況を「見える化」したもの。赤が60%以上で青色に近づくほど低い。店舗奥にいくほど回遊率が下がっている状況が一目で分かる(右)(クリックで拡大)出典:トライアルカンパニー

スマートカメラを独自開発へ

 一方でアイランドシティ店には、トライアルカンパニーが独自開発したスマートカメラも600台設置しており、こちらは商品棚の管理に使用している。このスマートカメラは、スマートフォンベースでトライアルカンパニーが独自開発した画像認識エンジンであり、商品棚の商品陳列、商品接触を分析する。商品棚にフォーカスすることで、プライバシーを守りながら商品動向の可視化や定量化を可能としている。基本的にはスマートカメラ側で人の動きを排除して、商品棚の動向情報だけを管理側に送るという仕組みである。

 スマートカメラのベースとなるスマートフォンは型落ちの「VAIO Phone」だったが「特にスマートフォンの機種に依存するものではなく低価格で手に入った機種を使用している。アイランドシティ店での実証が進み、機能などが落ち着いてくると全店舗で活用するような動きになる。その際には一般製品を活用するのではなく、自社でスマートカメラを開発することも検討している」とティー・アール・イー 専務取締役 工学博士の松下伸行氏は述べている。

photophoto 店舗での商品棚管理用のスマートカメラ設置の様子(左)と、トライアルカンパニーのスマートカメラを裏から撮影したところ。「VAIO Phone」が使用されていた(右)(クリックで拡大)

 スマートカメラによる商品棚の管理により、離れた場所にいても、棚の商品が欠品していたり、整理できていなかったりする様子を簡単に把握できる。店舗の定期巡回ではなく欠品を補充する必要があるときだけ作業するなど、従業員の作業効率向上に貢献する。松下氏は「具体的に数値的な成果はまだ検証を行っているさなかだが、従来気付かなかったことや見えなかったものが、多く見えてきている」と成果について強調する。

photophoto 商品棚の監視イメージ。定められた商品がどのように並んでいるか把握できる(左)他、顧客が触れる様子をヒートマップで示すことなどが可能(右)(クリックで拡大)出典:トライアルカンパニー

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.