いまこそ“メカジョ”を経営戦略に、国家GDPを8%引き上げる女性の力モノづくり、女性の力(1/2 ページ)

モノづくり現場において女性の力を効果的に生かしていくためには何が必要となるだろうか――。オートメーションと計測の先端技術総合展「SCF2017/計測展2017 TOKYO」では、「モノづくりの最前線で輝く女性たち」をテーマに日本機械学会会長の大島まり氏が講演した。

» 2018年02月20日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 働き方改革やダイバーシティーなどで注目を集める女性の力の活用だが、モノづくりの現場はまだまだ男性中心の世界が広がる。その中で女性の力を効果的に生かしていくためには何が必要となるだろうか――。オートメーションと計測の先端技術総合展「SCF2017/計測展2017 TOKYO」(2017年11月29日〜12月1日、東京ビッグサイト)では、テーマセッション「モノづくりの最前線で輝く女性たち」をテーマに日本機械学会 会長の大島まり氏(東京大学 教授)が講演した。また、講演終了後、大島氏ら4人が「工学分野における女性の活躍促進に向けて」をテーマにパネルディスカッションを行った。

足りない女性の参画と協働

 大島氏は東京大学大学院情報学環・生産技術研究所に勤務し、バイオ・マイクロ流体工学を研究している。現在は循環器系疾患のマルチスケール・フィジックス解析に取り組み、疾患のメカニズム解明とともに、個別の患者に対応できる治療・診断システムの開発を進めている。今回の講演では国内外での男女共同参画の現状や日本機械学会の取り組みについて紹介した。

photo 日本機械学会 会長で東京大学 教授の大島まり氏

 男女共同参画社会とは日本国憲法の「男女共同参画基本法 第2条第1号」により、個人の尊重と法の下の平等を前提に「男女が均等に政治的、経済的、社会的および文化的利益を享受することができ、かつ、ともに責任を担うべき社会」をいう。これらを実現するためには、「多様性(ダイバーシティー)」と「参画・協働(インクルージョン)」の2つがまだ足りない状況だという。大島氏は「ダイバーシティーについては少しずつ浸透しているが、今後はインクルージョンをどうするかが新たな課題となる」と指摘した。

 これら2つの考えの重要性については「豊かな社会づくり」や「人間の幸福の追求」のために不可欠となる。多様性がもたらす組織への活力がこれからの科学技術や社会には必要となっている。さらに、経済活性化の観点では少子高齢化で労働人口の減少が懸念されている中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保するためにも女性は大きな潜在力となる、といわれている。

 IMF(国際通貨基金)によると、日本の女性労働力率が他のG7(イタリアを除く)並みになると1人当たりのGDP(国内総生産)が4%増加、北欧並みになれば8%増加するという。「この予測の大事なところは、女性の活躍推進は社会的な福利厚生ではなく経営戦略であるというところにある」と大島氏は述べた。

 日本の生産年齢人口の推移をみると、2060年には現在から半減するとみられる。また、総人口に占める65歳以上の割合は2005年には20%だったものが、2015年には25%となり、2035年には33%まで拡大すると予測される。これに加えてグローバル化が進み、社会と労働環境が大きく変化している。こうなると「既に女性問題ではなく、男女に関係なく社会全体で取り組むべき問題となってきた」(大島氏)とする。

 日本において、高等教育や科学技術における女性の進出はそれほど多くない。女性研究者の割合は諸外国と比べて低く、特に工学、理学、農学分野ではその傾向が顕著に表れている。また、上位の学校、上位の職になるほど、女性の就任割合は小さい。女子の高等教育進学率は上昇傾向にあるが、依然として男女差が存在しているのが現実である。

 こうした状況を社会問題として捉えていくために「ある程度まで人数を増やしていくことが必要だ」と大島氏は主張する。そうすることで、声が形成され、政策にも大きな影響を与えることにもつながっていく。この取り組みにはトップダウンとボトムアップの2つの方法がある。大島氏が会長を務める日本機械学会としては、トップダウンの方法としては、サポート体制の整備や、ライフイベントとキャリアアップのコンフリクトへの理解と評価を進める方針だ。一方でボトムアップの施策としては、理工系に進む女性の保護者に対して理工系のイメージを変えたり、長い目で見たキャリア構築の可能性を提示したりしている。

メカジョ未来フォーラムを開催

 日本機械学会は、技術社会の基幹である機械関連技術に関わる技術者、研究者、学生、法人の会員から構成されている。講演発表会、講習会、研究分科会などの企画実施、市民フォーラムによる社会の啓蒙活動、国際会議による世界への貢献を活発に行い,会員相互の学術の向上と社会への技術成果の還元を目指す団体だ。会員数は、現在約3万5000人だが減少傾向にあるという。特に企業の若手研究者・技術者が減っているのが大きな問題となっている。女性の会員は約800人と少なくこの数を増やすことも課題となっている。そのため男女共同参画の推進、女性研究者・技術者の活動支援を通しての人材育成への寄与を目的として2004年に「LAJ(Ladies Association of JSME)」を発足した。

 LAJでは、機械工学分野で活躍している女性の積極的な情報発信や機械工学に関わっている女性のネットワークの充実化と拡大、性別を超えた研究・職場づくりなどを活動の目標に掲げており、出張授業、会社の研究者・技術者の交流会などを開催している。2018年3月には「第2回メカジョ未来フォーラム」を開催する。また、日本機械学会女性未来賞などの表彰制度も設けている。なお、2017年3月に開催した「第1回メカジョ未来フォーラム」には女子学生112人が参加し、50社の企業が出展した。日本機械学会ではこうした取り組みを通じて、女性研究者・技術者の就職・採用・研究支援などを進める方針だとしている。

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