「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第12回。「なぜ滋賀県が日本を、そして世界を代表するような新産業創出のホットスポットとなっていないのか」という問いに挑戦する「滋賀テックプランター」を紹介する。
滋賀テックプランターは、県の「平成28年度滋賀発成長産業発掘・育成事業」として、研究・創業に関するノウハウを持つリバネスとともにスタートした。滋賀県の持つポテンシャルについて、2017年5月に発刊された雑誌「滋賀テックプランター」にはこう記されている。
琵琶湖を中心とした豊かな自然環境が整い、適度に交通の便がよく、なにより研究に力を入れている大学と、グローバル企業の研究・開発拠点が集積しているなど、非常に恵まれた環境がそろっているといえるのではないだろうか
2017年4月には、ベンチャー・エコシステムの構築を目的に「滋賀発成長産業の発掘・育成に関する連携協定」を締結。滋賀県、県内の6つの大学(滋賀大学、滋賀医科大学、滋賀県立大学、長浜バイオ大学、立命館大学、龍谷大学)、滋賀県産業支援プラザ、金融機関、滋賀テックプランターを運営するリバネスで構成されている。
滋賀県から世界を変える研究開発型ベンチャーを生み出すことを目指す滋賀テックプランターでは、まず「モノづくり技術」、「水・環境技術」などに関連したビジネスシーズを発掘。定期的なメンタリングや、創業に必要な会計、法務、資金調達などを学ぶ「リアルテックスクール」など、専門家が支援して事業化プランをブラッシュアップする。
事業化プランコンテスト「滋賀テックプラングランプリ」も開催され、大手企業や支援機関への訴求の機会になると同時に、優秀なプランには継続的なハンズオン支援が提供される。コンテストは、これまでに2017年の1月(2016年度)と7月(2017年度)に開催されており、それぞれの最優秀賞は、チーム・ミッドワイフの「母乳哺育の継続を目指した乳頭ケア用品の開発」と、龍谷大学環境DNAラボ/龍谷大学理工学部環境ソリューション工学科の「環境DNA分析が切り開く生物モニタリングの未来」が受賞。協賛企業賞も設定され後の支援につながっている。
滋賀県といえば、日本最大、最古の湖である琵琶湖。祖先となる湖を含めると440万年の歴史があり、世界で20ほどしかない「古代湖」の一つである。県面積の約6分の1を占め、京阪神の約1400万人の飲料水としても利用されている。琵琶湖には約1100種の動植物が生息し、報告されている固有種も61種。毎年約5万羽の水鳥が訪れ、ラムサール条約の登録湿地ともなっている。
2015年9月には、国民的資産である琵琶湖を健全で恵み豊かな湖として保全・再生を図るために「琵琶湖の保全および再生に関する法律」が公布・施行され、県ではヨシ群落の保全、外来魚の駆除や水産資源の回復、湖国の風景・歴史的環境の保全、環境教育・環境学習の推進など多くのテーマに取り組んでいる。
水源であり、観光地であり、水産業の場である琵琶湖は、生物や生態系、湖底遺跡、水や環境など、県や大学のさまざまな研究の場でもある。滋賀テックプランターが発掘するビジネスシーズの分野として「水・環境技術」が掲げられている背景には、歴史が育んだ琵琶湖という奇跡的な資源がある。
滋賀テックプランターでは、中高生を対象とした研究支援プログラム「滋賀ジュニアリサーチグラント」も実施している。次世代理系人材の育成を目指したもので、採択されると研究費10万円の助成と研究者による研究サポートを受けることができる。こういった将来のシーズを生み出す土壌作りも行うことで、持続的なベンチャー・エコシステムを目指している。
滋賀テックプラングランプリの参加条件の一つは「世界を変えうるQuestionとPassionを持っていることが望ましい」。また雑誌「滋賀テックプランター」の裏表紙には「琵琶湖畔を日本のシリコンバレーに!」と書かれている。研究の将来像、具体的な支援が示され、滋賀から世界に羽ばたくベンチャー、またその姿を目指す子どもたちが育っていくことだろう。
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