「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第9回。大分県から宮崎県に広がる東九州地域において、血液や血管に関する医療を中心とした産官学連携の取り組み「東九州メディカルバレー構想」を取り上げる。
東九州地域医療産業拠点構想(東九州メディカルバレー構想)とは、「大分県から宮崎県に広がる東九州地域において、血液や血管に関する医療を中心に、産学官が連携を深め、医療機器産業の一層の集積と地域経済への波及、さらにはこの産業集積を活かした地域活性化と、医療の分野でアジアに貢献する地域を目指す」というもの。2011年12月、地域活性化総合特別区域に指定された。
取り組みの中心となっているのは、産学官連携による研究開発の推進、研究開発環境の整備など「研究開発の拠点」、医療技術に関わる人材、将来を担う医療人材など「医療技術人材育成の拠点」、東九州地域発の先端医療技術の国際標準化を目指した「血液・血管に関する医療拠点」、企業誘致を推進し、地場企業に対して支援する「医療機器産業の拠点」の、4つの拠点づくり。幅広い医療産業、医療技術者の集積や、地域の医療、および関係機関の相互連携の強化に取り組んでいる。
その結果、医療関連産業の参入を促進する協議会・研究会の会員企業数は、いずれも設立当初の2〜3倍に増加。医療機器メーカーと製造業などのマッチング会も行われており、いくつもの製品が市場に投入されている。地域資源と医療を組み合わせた新しいサービスとなる国際医療交流も推進している他、ASEANを中心に研修やトレーニングも行われ、日本式医療のアジアへの浸透も進み始めている。
大分県は別府や由布院をはじめ、源泉数、湧出量とも日本一の温泉が有名。近年は「おんせん県おおいた」としてPR動画を配信し、温泉でのシンクロが話題になった。今年5月には、国内外の温泉自治体のトップや経営者、研究者などが集まる、世界初の温泉の世界サミット「おんせん県おおいた 世界温泉地サミット」も開催される。地熱・温泉熱エネルギーの活用、産業化にも取り組んでいる。
宮崎県は県土の12%を国立・国定公園などの自然公園が占める。気候が暖かいことから、プロ野球、Jリーグをはじめ、国内外のスポーツキャンプや合宿に多く利用されている。2007年以降は、毎年1000を超える団体を受け入れており、最多であった2015年は1429団体、19万8202人に上った。一方で台風の影響を受けることも多く、また冬の山間部は寒冷で雪も積もるため、日本最南端の屋外アイススケート場やスキー場もある。
両県のポテンシャルは自然や観光ばかりではない。
大分県は、医療機器生産金額964億円、全国第7位、宮崎県は144億円、26位(平成25年薬事工業生産動態統計年報)で、東九州地域には、旭化成メディカルMT、川澄化学工業、東郷メディキットなど血液・血管関連の多くの医療機器メーカーがある。国内外でシェアの高い製品も多く、中でも人工腎臓、血液回路、血管用カテーテルなどは日本一、血液浄化製品は世界一のシェアを誇るなど、血液・血管関連医療機器の世界的な生産・開発拠点となっている。化学・医療機器などの関連産業のほか、半導体、自動車、食品などさまざまな産業もあり、幅広い分野の高い製造技術も集積。東九州メディカルバレー構想のポテンシャルも大きいと言える。
東九州メディカルバレー構想の背景には、医療産業は景気変動の影響が比較的少なく、国の戦略としても成長けん引産業と位置付けられていること、特に血液・血管は先端医療を支える分野であること、発展途上国の医療水準の向上に伴う市場拡大も予想されることなどがある。また、前述したように観光資源でもある自然や温泉といった地域資源に恵まれていることも、医療や健康サービスの可能を広げる。
経済産業省九州経済産業局では、「九州・沖縄地方成長産業戦略〜九州・沖縄 Earth 戦略〜」で22のプロジェクトを推進している。「医療・ヘルスケア・コスメティック」分野の「ヘルスケア産業振興プロジェクト」では、「東九州メディカルバレー構想等地域プロジェクトと連携し、医療・福祉機器関連産業および医療・介護周辺サービス業の創出と集積、さらには積極的な海外展開を図り、『健康寿命が延伸する社会』の構築の実現を目指す」としている。描く将来像は「九州をメディカルアイランドとし、海外に通用する医療機器等の生産拠点」にすることだ。
アジアに近いこと自体もポテンシャルの1つ。日本のみならず、アジア地域の高齢化や医療・健康需要に貢献してくれるに違いない。
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