昨今、自動車業界では、自動運転を含むADAS(先進運転支援システム)の研究が盛んです。自動運転を実現するためには、膨大なデータの蓄積を必要としますが、そこで有効になるのがコンピュータ内の仮想環境で仮想の試験車を走らせる走行シミュレーションです(図1)。
グーグル(Google)の自動運転技術開発の例では、1日当たり1000万マイルの仮想走行を行っています。この目的のためには、試験車を何らかの目的の基で稼働するシステムとして仮想化する必要があります。そこで、システムとしての特徴を見極めて1次元量で表しモデル化する「1Dシミュレーション」を核に、エンジン/モーター、ドライブトレイン、タイヤ、ステアリング、ブレーキ、センサーの物理挙動および車両内のエネルギー管理は、3DのCAEや実機のテストデータなどから複合領域(構造、熱、流体、機構)のシミュレーションを実施することになります。これらが「デジタルツイン」の1つの局面になるのです(図2)。
また、内燃機関が電動化されていく流れの中で、バッテリーの性能/挙動解析の重要性が高まっています。現在の電気自動車の車載電池はリチウムイオン二次電池が主流ですが、安全性の向上や高容量化のため、全固体電池や非リチウム系の二次電池などが次世代電池として研究されています。
いずれの電池にしても、研究開発には微視的観点の電極構造、セル構造の形状、バッテリーパックの熱流体/電気化学の連成解析が用いられており、比較的新しい電気化学領域の解析、それらと熱流体との複合解析、加えてマイクロ/メゾ/マクロスコピックの複数の観点からの解析と幅広いCAEのアプローチが必要となります(図3)。
さきほど、構成要素のモデル化から自動車1台を1DシミュレーションによってCAEモデル化するケースを取り上げましたが、今後はモデルや挙動について、データの集積から機械学習やディープラーニング(深層学習)を活用して、シミュレーションモデルやシミュレーション自体を高度化することが考えられています。
ディープラーニングについては各所で取り上げられているのでここでは詳述しませんが、言語処理、画像認識の分野で徐々に実績を上げています。CAEの分野、特に熱流体や燃焼系など複雑な解析においては、初期条件と解析結果の優劣との因果関係を発見するのが困難で、CAEを用いても性能向上につなげることが難しかったのですが、ディープラーニングを利用することでより短期で、目標性能を実現することが期待されています。
製造業の最近のトレンドとして、IoTやビッグデータ、AIなどが取り沙汰されています。そんな中でも、実は比較的古典的な概念であるCAE/シミュレーションモデルの利活用は、今後ますます重要になってくると思われます。
次回は、デジタルマニュファクチャリング(組立/ラインシミュレーション)、部品加工(CAM)を取り上げる予定です。
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