先ほどのグローバル化というのも、日本視点での話になりますが、全世界でモノづくりが展開されている国際化と、このような規格の国際化において、“日本が取り残されないため”にも、“海外でも通用する”また“一人の設計に携わる者”としては見過ごすことのできることではありません。
3D CADの話でも同様です。新興国や途上国への3D CADの導入は進んでいます。近年はアフリカの国においても、3D CADの導入があることを聞きました。これは10年前に予想していたことでしょうか。先ほどの生産工場の話と相まって、このような人件費が格段に安い国での設計製造ができるようになることは、もはや時間の問題でしょうし、既に始まっている話でもあります。
ここまでお話しさせていただいたことは、公差計算や公差解析とは関係のないように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ちゃんとつながりがあります。
高密度・高精度・軽薄短小・大量生産・コストダウン・グローバル化・国際規格というキーワードから、高度化する製品設計と、国際的な調達と製造を行う上で、日本が強みを持つ“すり合わせ”技術の中で、コストと納期で優位に立つ“モノづくり”を行う上では、「世界に通用する」「世界とコミュニケーションができる」設計と設計図面が必要です。そして、設計者が行うべきことの重要な1つが、公差計算・公差解析であると私は考えています。
10年間という時間の中で、公差計算・公差解析の必要性が変わらなかったということではなく、国際的な要求の上で、より必要になったのだと私は言いたいです。
読者の皆さんの中には「公差計算・公差解析って何?」と思われる方もいるかもしれません。このあたりからお話を始めましょう。
そもそも公差とは何でしょうか? 簡単に言ってしまえば、形態の寸法や幾何的な状態の許される範囲を決めるものだと言えます。一般的なものが、普通公差といわれるものでしょうが、さまざまな公差がJISによって定義されています。
などさまざまな内容が定義されていますが、設計者が部品単体、アセンブリーを考える上で、その部品の形体を定める上で、またアセンブリーで機能を満足するために、ある条件のための制約として与える数値になります。設計現場では、公差の等級、一般公差の適用、機能部品に対しての特別な公差設定を考えながら設計を進めます。場合によっては、アセンブリーを考えている時、3D CADにおけるボトムアップ的な設計を行っている場面では、設計している部品への公差を考えていないかもしれません。
私の経験では、3D CADにより部品を設計・モデリングを行っている際に、公差を入力しているということはまずありませんでした。購入品では製品そのものの公差値を見ながら、その購入品の機能が要求仕様を満足するものなのか、その購入品の機能を満足するにはどのような取付け方法を行うのかをアセンブリー詳細設計時に考慮しています。またその購入品の取り付け部品についても、他の加工部品と同様に、2D部品図面を作成する際に公差を必ず設定します。また、それは設計者が当たり前のように担当する作業です。すなわち、公差設計は設計作業そのものなのです。
この公差ですが、“ものすごい高精度の公差”を設定してしまい、その通りモノができるのであれば、設計者はそれこそ“枕を高くして寝ることができる”でしょう。「プラスマイナスゼロ」の世界です。
最新の工作機械で加工すれば「公差なんて必要ない」なんて考えますか? 最新の工作機械で加工すれば、「図面に設定した公差以上に加工できる」なんて考えますか? 工作機械は進化してはいるものの、果たしてそんなことが実現できるのでしょうか。私は「今は無理」だと断言します。そもそもデジタルの世界ではなく、実世界の中でモノを作ろうとすれば、バラツキが生じます。このバラツキを生む要因には、4M要素があります。
ある一定の規格や技量の中で加工するとしても、必ずバラツキは生じるものです。設計者が“枕を高くして寝ることができる”公差を、いわばチャンピオンの公差を設定したとしても、それが実現できるものでなければ、これらのバラツキの中で部品は変動するわけです。また仮に高精度な公差が実現できるのだとしても、そこには加工側の付加価値があるのであって、加工コストは上がります。
私が設計者になったばかり当時、調達部門で、
「こんな加工ができると思ってるの?」
「加工方法は知っているのかい?」
「こんな加工したら高くなるよ。原価合わないでしょ?」
とよく指導を受けたものでした。
加工を熟知する先輩社員のおかげで成長できました。設計者は仕様を満足したいために公差を与えます。調達部門では、加工方法とコストを考えます。また製造組立部門では組み立てやすさを考えます。
「こんな公差じゃ組み立てられないよ」――そこで、厳しい部品公差を要求されます。ここが、“擦り合わせ”です。
設計者としては、適切な公差を設定する証拠としての公差計算と公差解析の必要性があります。(次回に続く)
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