ゼンシスは、Z-Waveプロトコルを完成させた後、自身でチップの製造も手掛ける。最初にリリースされたのが2003年の「Z-Wave 100(ZE0102)シリーズ」で、0.35μmプロセスを利用してトランシーバーとMCUを搭載した製品である。もっとも、MCUの方はZ-Waveのプロトコルスタックを搭載する程度で、それ以上の処理は外部にアプリケーションプロセッサが必要になるが、それでもワンチップで片付くので、コストパフォーマンスの非常に良いソリューションだった。
これが2005年には、機能的には変わらないながら、転送性能を40Kbps程度まで引き上げ、さらにプロセスの微細化(0.18μm)により低価格化と省電力化を果たした「Z-Wave 200(ZE0201)シリーズ」をリリースした。2006年にはZ-Wave 5.0に準拠した「Z-Wave 300(ZW0301)シリーズ」をリリースしている。この2006年前後は、Z-Waveにとって非常に大きな節目となる年だった。
2005年にゼンシスは、Z-Waveアライアンスを結成する。結成時のメンバーはダンフォス(Danfoss)、インターマティック(Intermatic)、レビトン(Leviton)、モンスター(Monster)、ウェインダルトン(Wayne-Dalton)、UEI(Universal Electronics)とゼンシスである。いずれも家庭向け機器に携わっている企業であり、こうした企業と共同でZ-Waveを広めてゆこう、と画策した訳だ。
実はこの当たりの動き方は、IP500をほうふつさせるものがある。まず独自で通信規格を定め、ついでその規格向けのソリューションを用意し、その後に標準化を進めることで普及を狙うというステップである。
IP500と違うのは、当時他に競合する規格があまり無かったことだ。もちろん、冒頭でも述べたようにZigBeeという有力な競合規格があった。しかしZigBeeは2.4GHz帯を使うという点がZ-Waveとの最大の違いであり、Z-Waveはこれを最大限に生かした。当時の半導体製造技術だと、まだ2.4GHz帯の高周波チップはちょっとだけ割高であり、サブGHzの帯域を通信に用いるZ-Waveは、ZigBeeと比較してチップ価格が半額で済むとしていた。
ちなみに2006年当時で言えば、ZW0301シリーズを搭載する「ZM3102」というZ-Waveモジュールは、大量購入時には1個当たり4.50米ドルを切るとしており、これはまずまずの価格である。ISMバンドを使う以上、送信出力は低い(1mWまたは0dBm)であるが、サブGHzということで意外に到達距離は長く、また送信出力が低いということは特にバッテリー駆動時に電池寿命を長く持たせられるわけで、速度の遅さを気にしなければこれは都合が良かったし、その速度にしても40Kbpsも出れば家庭向けには十分といえた。
こうした動向もあってか、2006年にはインテルキャピタル(Intel Capital)から投資を受けており(投資金額は未公表)、同年にインテル(Intel)もZ-Waveアライアンスに参加している。この時点でZ-Waveアライアンスのメンバー企業は125社を超えており、ちょっとした一大勢力と思われていた。
ゼンシスは2008年にはパナソニックからの投資も受けているのだが、その2008年9月にゼンシスは米国のシグマ・デザインズ(Sigma Designs)に買収されてしまう。シグマ・デザインズはZ-Wave 100シリーズを含む全てのZ-Waveのコントローラーの製造元であり、ゼンシスからするとなんというか軒を貸して母屋を取られた感も無くはない。しかし、この買収時点でもゼンシスの規模は小さく(当時、同社のR&Dセンターは33人からなり、うち23人がエンジニアだったそうだ)、Z-Waveアライアンスの規模拡大を考えた場合、より大きなシグマ・デザインズが主体となったほうが好都合という事情は確かにあったと思う。買収に関するプレスリリースを読むと、この時点でZ-Waveのチップセットは60以上のメーカーの250以上の製品に採用されているとあるので、確かにそろそろ頃合だったのかもしれない。
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