蓄電池材料の探索におけるマテリアルズ・インフォマティクスCAE事例(2/3 ページ)

» 2017年09月29日 13時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 イオン拡散の計算では、量子力学的手法で運動エネルギーを与えて動かし、そのつど第一原理計算で出す。精度が高く、かなり実験値に近い結果が得られるが、計算コストもかなり高い。また拡散経路を指定しなければならないため自動化が難しい。中山氏が2013年時点に使用した計算リソースでは6カ月かかった。

 これでは大変なことからハイスループットの観点から計算を行う。量子力学計算(第一原理計算)は電子1個ずつの動きをシュレディンガー方程式を解いて調べるが、これを古典力場に置き換えて解く。あらかじめ得られたある程度の実験や、シュレディンガー方程式など上位の計算の結果にマッチするようにパラメータを調整し、イオンと周囲との相互作用を適当な経験式に置き換える。この方法であれば3桁くらい計算が速くなる。ただし、ハイスループット計算は計算の高速化よりむしろ自動化によって人の手を省くことが肝になるという。自動化することにより、5000件程度を数カ月で全て計算することができたという。

機械学習で一部から全体の傾向を予測

 ハイスループット計算を適用して得られた抜き取りサンプルのデータを基に、機械学習により全体の傾向を予測する。中山氏はオリビン型の結晶構造を持つLiMXO4材料を例に、全体傾向を予測した例を紹介した。LiMXO4のM,Xは金属イオンで、希土類も含めて全体では72件の組み合わせがある。ポテンシャル的に適切でないものを省くと66件になった。66サンプル中15サンプルの活性化エネルギーを第一原理計算により算出し、それを利用して、計算していないサンプル空間についても機械学習を使って活性化エネルギーを算出した。

 その際は記述子と呼ばれるものを変数として予測式を立てる。記述子は、格子定数や体積、Li-Oの距離、MO6八面体のひずみ、Li-O-Li平均結合角などの数値データを用意する。「記述子は計算しなくても分かる、あるいは簡単な計算で出るようなデータを選ぶことが大切になる。予測したい計算の方が大変で、用意する記述子は簡単という条件でなければ、予測式を作る意味がほとんどなくなってしまう」(中山氏)。

 続いて市販の統計解析ソフトウェアを使って機械学習により活性化エネルギーを予測する式を導き出す。第一原理計算の値と予測式の値が非常に合っていることが分かる。最終的に予測式さえできれば、一瞬で物性予測ができるというわけだ。機械学習についてはJMPなどの市販ソフトは使いやすく、無料であればPythonなどを活用する。

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