「標準時間」はなぜ必要なのかよくわかる「標準時間」のはなし(2)(3/4 ページ)

» 2017年08月17日 11時00分 公開

2.4 労働生産性における標準時間

 同じ出来高を上げるにしても、いかにできるだけ少ない人員で行うか、つまり、いかにして生産性を上げるかが企業にとって最も重要な課題です。生産性の指標の中にはいろいろと種類がありますが、現場のリーダーにとっては、それらの中でも労働生産性が最も大切な管理項目です。

 日本も加入しているOECD(Organization for Economic Co-operation and Development;経済協力開発機構)加盟諸国の国際比較における労働生産性の算出は、次の式で算出されます。

労働生産性=GDP※)÷就業者数(または就業者数×労働時間)

※)GDP:Gross Domestic Product、国内総生産

 この算出式でいえば、国内総生産は企業もしくは部門の売上高と置き換えることができますが、もっと正確に労働生産性を求めるには、標準時間を用いて算出する方式の方が計算も容易で、より確かな指標として活用することができます。

 例えば、1人で8時間かかる仕事(すなわち、標準時間が8時間)があったとすると、この仕事を5時間で終了させれば、生産性は、8時間÷5時間=1.6(160%)と評価できます。この仕事に10時間かかれば、生産性は、8時間÷10時間=0.8(80%)となります。この例のように、労働生産性を標準時間に対する効率で算出します。

労働生産性=標準時間÷実際に要した時間(%)

 労働生産性は、平易に表現すれば作業者の働きぶり(能率)を示す指数あるいは、いかに“ムリ、ムダ、ムラ”のない仕事をしているかを示す指数ともいえますので、人の行う仕事を数値で捉えようとするものであるということがいえます。

 このような考え方に基づく労働生産性の算出に、標準時間の替わりに売上高や生産台数などを用いてしまうと、働きぶりの部門間の比較や改善前後の比較を行おうとした時、公平な値を求めることができません。

 標準時間のいろいろな役割のうち、この労働生産性の把握は最も利用価値が高く、現場リーダーにとっては、必要不可欠の指標といえます。現場リーダーは、標準時間を用いて、労働生産性を把握して向上させるという職務が日常業務として行われていなければなりません。より高い水準の「良い(Q;Quality)モノを、安く(C;Cost)速く(D;Delivery)造る」という仕事は現場リーダーが最もふさわしく、また現場リーダーでなければできないといっても過言ではありません。

2.5 作業改善における標準時間

 作業改善を進めていく際には、複数の改善案を考えつくのが一般的です。この際に、どの案を採用すべきかを判定するよりどころとなるのが標準時間です。もちろん、品質に及ぼす影響なども勘案しながら、標準時間が最少となる案を選択すべきで、これが、限りなく「良い(Q)モノを、安く(C)速く(D)造る」ということに対する現場リーダーの具体的な活動です。

 作業改善を行う場合、まず、現状の作業を分析し、標準時間と現状を比較検討して現状の問題の所在を明らかにしていく必要があります。作業方法の改善を進めようとするときは、作業測定と標準時間との比較を行うことによって、より的確に問題を捉えると同時に、その問題の大きさを明確にします。そのことによって、改善の結果として得られる成果の予測も可能となります。下図は、このサイクルを示したものです。

標準時間と改善サイクル 標準時間と改善サイクル

 現場リーダーは、標準時間に関する知識を身に付けて、作業の中に標準時間に含まれていないものはないかという“ムダを発見する目”、そして、見つけ出した作業のムダは、どのように排除したらいいのかという“ムダを排除する知恵”、最も時間のかからない作業方法はないかという“作業設計力”といったことを常に考えていることが必要です。これが「S.Tマインド」といわれているものです。

 改善なくして、企業の発展はありえません。現場リーダーは、上図の「標準時間と改善サイクル」に沿って作業改善を継続的に行っていくことが大きな任務であることを銘記しておかなければなりません。

2.6 作業者の訓練における標準時間

 標準時間の活用は、新しく仕事に就いた人達の成長状況を科学的に測定することができ、その後の作業訓練計画に役立てることができます。作業測定を行い、その結果を標準時間と比較することにより、作業者の不都合な作業手順が明らかになり、作業訓練計画に役立つばかりでなく、訓練期間を短縮させることも可能となります。

 新しい作業者が自分のペースで正しい仕事のやり方を学び取ってくれることだけに頼っていたのでは、一人前に成長していく期間が長くなり、その成長速度に個人差も生じやすくなります。しかし、標準時間を用いて適切な訓練を行うことによって、短期間で良好な結果が得られます。

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