さて、第13回の「インダストリー4.0の地味化はいい傾向?悪い傾向?」でも取り上げましたが、インダストリー4.0やIoTの取り組みは「産業革命」として示される大きな変革の方向性は見据えつつ、現実的な機器やソリューションが登場し始めています。
印出さん、こんにちは。ちょっと困ってしまって。社長が工業会とかで影響を受けたみたいで「何でまだうちはIoTで何もやっとらへんのや」と騒ぎ始めているんです。
あら、まだ何もやっていなかったの? 前からとにかくやるべきだと私が言ってたのに、聞いてなかったのかしら。
いやあ、それについては言葉もないんですが……。ただ、何も考えていなかったわけではなくて、将来的に生きる形にするためには、情報システム部門との話も必要になりますし、社内でいろいろ調整していたんですよ。
まあ、確かに、矢面さんのいうこともよく分かるわね。それで社長はどう言っているの?
とにかく「何でもよいからやれ」の一点張りなんです。どうやらライバル企業の人にいろいろ言われたみたいで、負けず嫌いの血が騒いじゃったみたいなんです。
おやおや。でもまあ、捉えようによってはこれはチャンスかもしれないわね。IoTはやってみないと分からないことも多いし、スモールスタートでも始めたことで得られるものも多いわ。シンプルなツールも出てきつつあるし。
そこなんですよ。ITベンダーとかの話を聞くと、「シンプルです」と言いつつも、すぐに「基盤となる情報システムから〜」とかの規模になるじゃないですか。そうなると調整も必要だし、簡単に始められるものではない気がするんですけど。
「デジタルトランスフォーメーション」など、将来的にIoTを活用してビジネス変革を進めていくことを考えるのであれば、当然さまざまな計画や調整が必要になります。ただ、個人的な考えにはなりますが、こうした全体計画を一気に描いて進めるというようなやり方は、日本企業には苦手分野であるように見えます。「強い現場」に支えられた日本の製造業では、まずは現場主導でシンプルで簡単なIoTを活用して成功の形や実績を築き、その実績にヒントを得て全体的な計画へと進めていくというボトムアップ型の流れの方が円滑に進むような気がしています。
そういう意味では、全体的なシステムやプロセスそのものを大きく変更するのではなく、現在のプロセスで改善したいポイントと目的、それに対応するデータ取得および蓄積環境を用意することができれば、スタンドアロンの形でも効果を発揮することは可能です。だからこそ「簡単、シンプルなIoT」が注目されてきているといえます。実際に「見える化」や「稼働監視」などでは、情報基盤や表示器、センサーなどを一体化にしたパッケージ製品なども徐々に登場してきています。これらを活用することで、まずは「IoTの成功のパターン」や「勘所」を社内に取り込んでいくということも重要です。
IoTの活用を進めることが難しい中堅中小製造業については、政府の支援なども進んでいます。経済産業省などが主導するロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)では、2016年に中堅中小製造業が使いやすい「中堅・中小製造業向けIoTツール募集イベント」を実施し、106件のツールを「スマートものづくり応援ツール」として認定しています。2017年度も新たにツールの他、IoTツールの使いこなしを形式知化する「IoTレシピ」の募集なども行っており、こうした情報なども活用することで、より簡単にシンプルIoTの導入が行えるかもしれません※)。
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