製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説していきます。第15回となる今回は最近注目される「簡単でシンプルなIoT」についてまとめます。
本連載は、「いまさら聞けない第4次産業革命」とし、第4次産業革命で製造業が受ける影響や、捉える方向性などについて、分かりやすくご紹介していきたいと考えています。ただ、単純に解説していくだけでは退屈ですので、架空のメーカー担当者を用意し、具体的なエピソードを通じて、ご紹介します。
※)本連載では「第4次産業革命」と「インダストリー4.0」を、意味として使い分けて表記するつもりです。ドイツ連邦政府が進めるインダストリー4.0はもともと第4次産業革命という意味があります。ただ、本稿では「第4次産業革命」は一般用語として「IoTによる製造業の革新」を意味する言葉として使います。一方で「インダストリー4.0」はドイツでの取り組みを指すものとします。
矢面 辰二郎(やおもて たつじろう)
自動車部品や機械用部品を製造する部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長。ある日社長から「君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われたことから、話が始まる。多少優柔不断。印出研究所に入り浸っている。
印出 鳥代(いんだす とりよ)
ドイツのインダストリー4.0などを中心に第4次産業革命をさまざまな面で研究するドイツ出身の研究者。第4次産業革命についてのさまざまな疑問に答えてくれる。サバサバした性格。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
第14回:「3Dプリンタはインダストリー4.0の重要なピース?」
従業員200人規模の部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長である矢面辰二郎氏はある日、社長から「新聞で読んだけど、君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われます。しかし、「第4次産業革命」といわれても「それが何なのか」や「どう自分たちの業務に関係するのか」がさっぱり分かりません。そこで、矢面氏は第4次産業革命研究家の印出鳥代氏に話を聞きに伺うことにしました。
さて前回は、“インダストリー4.0の進捗確認の場”として注目される、ドイツのハノーバーで開催されたハノーバーメッセ2017で見えた3Dプリンタ復権の動きについて取り上げました。
印出さん、そういえば、ハノーバーメッセでは3Dプリンタに関する展示が多かった気がするんですが、日本では一時のブームが落ち着いた感じですよね。
ハノーバーメッセ2017では、中心となって目立っていたわけではありませんが、3Dプリンタおよび積層造形技術の出展などが増えた印象があります。その要因としてインダストリー4.0で目指すマスカスタマイゼーションの重要な要素の1つに3Dプリンタがあると印出さんは指摘していましたね。
1つの理由は、インダストリー4.0で目指す姿とされているマスカスタマイゼーションを実現するには、3Dプリンタを含むデジタルファブリケーション技術が必要になるからじゃないかしら。
インダストリー4.0で描く世界で実現する価値としては「パーソナライズ化された製品」があるとされています。こうした姿を実現するには、3Dプリンタのようなデジタルファブリケーション機器が必須になるため、3Dプリンタ技術が継続的に注目を浴び続けているというわけです。
そして、もう1つの理由が、設計と製造を直結するデジタルファブリケーションの仕組みが、新たな製造業のビジネスモデルを作るうえでヒントになるとされていた点でした。
デジタル環境で設計したものを3Dプリンタでそのまま形にできれば、メーカーとしての設計機能、製造機能などの位置付けが大きく変わってくるわ。そこに新たなビジネスモデルが存在するとされているの。
電機業界などでは製造工程をEMS(電子機器受託製造サービス)企業に委託するのが一般的になっていますが、企業間で委託という形をさらに超えて、製造工程や製造装置を共有する新たなビジネスモデルが創出される可能性があるというわけです。印出氏はこうも述べていましたね。
日本の「ものづくり白書」などでも指摘されていることだけど、日本の製造業は製造工程内の話には積極的だけど、ビジネスモデルの変革には消極的ね。だけど、海外にはこうした遠くまでを見据えた視野で開発を進めている動きもある。海外の動きが必ずしも正しいとは限らないけれど、どういう狙いでどういう方向性の動きが進みそうかというのは見ておくべきね。
さて、今回はあらためて「簡単でシンプルなIoT」とは何かという点とその意義について解説していきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.