馬場氏は現状でのパナソニックの課題として「タテパナ」と「ヨコパナ」の関係性を挙げる。「タテパナ」とは従来型の組織で、事業部制などを示す。事業部ごとの製品、価格、競合、顧客接点、体験などを、それぞれの組織のみで作るという仕組みである。
国内の多くの製造業はこうした方式で成長してきたが、ICT(情報通信技術)の進展などにより新たな製造業の形が求められる中で「従来と同じ方法を継続して世界一の企業になれるのかと考えた場合、そうではない。社会の要請としても、個々の技術や事業を深めているよりも『見方を変えて新しい価値を提供してくれ』と変化している。そのためには縦軸だけでは不十分だ。横での連携を行う『ヨコパナ』により、クロスバリューイノベーションを実現したい」と馬場氏は方針を述べる。
クロスバリューイノベーションを実現するには、技術に加え、文化、デザインなどが必要になる。イノベーション量産化の課題としては、コストやユーザーインタフェース、分析、セキュリティ、スピード、自前主義などが挙げられるが、これらを解決する技術基盤として、パナソニックが打ち出すのが「Panasonic Digital Platform」である。
パナソニックでは既に2013年から、製品などで生み出すデータを収納する共通のクラウド基盤「Panasonic Cloud Platform」を構築し活用を進めている。「Panasonic Digital Platform」は、この「Panasonic Cloud Platform」に、各種事業や製品群などに最適化したAPI(Application Programming Interface)などを組み合わせたもの。「従来はパナソニックの中でも使いたい事業部やカンパニーが使うという状況だった。しかし、全社共通の考え方として全ての事業部で活用していく方向性が明確になった」と馬場氏は述べている。
「Panasonic Digital Platform」は、クラウドおよびAPIで構成される共通のIoTプラットフォームではあるが、パナソニックではこの基盤そのものを差別化の中心に据えることはしないという。馬場氏は「IoTプラットフォームやAIプラットフォームなどさまざまなプラットフォームが登場しているが、驚異的なスピードで進化を重ねている。そのスピード感に合わせてコモディティ化も進んでおり、パナソニックにとって付加価値のある領域だとは考えていない。差別化にこだわるところではなく、差を生み出せない領域だからこそ割り切って使うことが重要だ」と位置付けについて述べている。
具体的にIoT製品による新たなサービスビジネスを展開することをイメージした際に、現在の開発体制では、PaaSやIaaSなどの基盤の開発に50%、その上にパナソニックとしてIoTサービスを展開するのに必要な機能や品質などを実現するのに45%のリソースがとられている。つまり、固有の価値を生む機能の開発にはわずか5%のリソースしか掛けられていない状況が生まれているのだ。
これらに対し、コモディティ化した領域や基盤をグループ内で共通化して活用し、協力して開発を進めていくことで、基盤にかかるコストは大きく低減可能になる。本来力を注ぐべき、固有の価値を生み出す差別化領域に多くのリソースを活用できるようになるというわけだ。
馬場氏は「既にPanasonic Cloud Platformは16事業部21のサービスで活用されているが、当初は開発に6カ月以上かかっていたが現在は3カ月に縮めることができている。さらにコストは3分の1まで低減できた」と馬場氏は現状での実績を紹介する。
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