トラック・プラトゥーニングと同じく、実用化の時期が早いと予想される自動運転ビジネスが、シャトルサービスだ。
今回の会期中、フランスのベンチャー企業NAVYAは、会場となったコンベンションセンターの敷地内の舗装路と未舗装路の合計約300mにおいて、周囲からの侵入を予防する柵などを使わない状態でデモンストレーションを行った。その他、物流システムの開発・生産を手掛けるフランスのLohrが、会場と約3km離れたストラスブール駅の間でレベル4の自動走行を行った。
こうした光景から“欧州では自動運転シャトルサービスの実用化が進んでいる”というイメージが、日本の自動車産業界では強いかもしれない。
ところが、現実は極めて厳しい。セッション「Deployment of autonomous shuttlles on the road:mobility of the future(未来のモビリティー:自動運転シャトルの公道展開)」に参加したが、NAVYAや、「Olli」というブランドで商用化を目指している米国のLocal Motorsの関係者らは「法規制については、まだ未整備。現在欧州域内で行っている実証試験では実施する現地のオーソリティー(地方自治体及び警察)ごとに道路交通法への対応が違う」と、自動運転シャトルが置かれている現状を説明した。
また、前述のERTRACのセッションで、筆者が「自動運転シャトルに対する法整備や規格の標準化の具体的な協議はいつ、どのようなステップで始まるのか?」と聞いたが、登壇したRobert Bosch(ボッシュ)、BMW、Volvo Cars(ボルボ)、そしてEC(欧州委員会)の関係者からは「新しい交通領域の社会的影響は大きいことは承知しているが、本件は今後の課題であり、現状では方向性を示していない」と答えた。
今回、100を超えるセッションの中で、筆者は自動運転に関するセッションを中心に参加した。また、併催された展示会で民間企業や各国の行政機関の関係者らと意見交換した。そうした中で聞こえてきたのは「EUは米国や中国のような大きなマーケットではない。だから、クロスボーダーという考え方は必然だ」という言葉だ。
運転の自動化、コネクテッド化、電動化という次世代自動車の三大変革を進める上で、クロスボーダーは欧州にとって大きな障壁なのだ。また、これら三大変革と連動する、ライドシェアリングなどのシェアリングエコノミーの影響については、各国の経済状況や一般道路での交通状況に隔たりがあるため、欧州全体として同じテーブルで協議することは難しいと感じる。
結局、ITSを含む次世代自動車の変革は、単一の市場として規模が大きく、大手IT企業の影響力が強いアメリカと中国が主導し、そこにジャーマン3、自動車部品メーカーの2トップであるContinental(コンチネンタル)とボッシュが深く介入し、そこで決まったデファクトスタンダードを欧州と日本が後追いするという図式になるのかもしれない。
なお、最後にもう1点、気になったことを書く。
今回のITS EU会議2017には、日本からも自動車産業界から参加があったが、ほとんどは会議の傍観者であり、出張レポート作成者であり、セッションに積極的に参加しようとる意気込みがまったくなかった。日本の自動車産業界の将来に、一抹の不安を感じた。
桃田 健史(ももた けんじ)
自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。近刊は「IoTで激変するクルマの未来」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.