やがて遠くから耳をつんざくような、鋭い騒音が聞こえてきました。その音がだんだん大きくなってきたとき、鉄子は目を覚ましました。
着いたみたいだね。ここは加工工場って言うんだ。
え? か・こ・う・こ・う・じょ? なんなの?
ぼくたちはこれから、人間の思った通りの形になるために削られたり焼かれたりするんだよ。そういうことをする場所が、加工工場って言うんだ。
ヒィィ……、削るとか焼くとか、もうやだ、怖い……。
鉄鉱石だったぼくたちは、人間に見つかってしまったときにその後の運命が決まってしまったようなものなんだよね
ああ……、そうなんですね……。
鉄子はふと、生まれ育ったふるさとの風景や仲間たちのことを思い出しました。
――みんな今、どうしているんだろう? 今のあたしの、こんなギンギラギンな姿を見たら、なんて思うかな? 帰りたいよ……。酸素に触れたいな……。
鉄男は物知りです。どうしてこんなに人間との関わりを知っているのでしょう? 鉄子は疑問に思って、尋ねてみました。
ぼくは、1回倉庫から出されてここに来たことがあるんだ。その時ちょっとだけビニールを外されて酸素に触れられたよ。でも人間の都合で、また倉庫に帰されたんだ。その時、はずれたビニールの隙間から人間の手がぼくに直接触れて、そこだけこんなふうなアザができちゃったんだ。
鉄男の表面には、赤茶色くていびつな丸い斑点が見えました。
ああ、なんだか、なつかしい感じのアザだね。
ぼくもそう思ってるんだ。
それからどのくらいたったのでしょう。向こうから、「ごろごろごろごろ」と音をさせながら、人間が台車に乗せて何かを運んできました。
鉄子や鉄男とは雰囲気が違います。グループによって、平べったかったり、丸かったり、H型だったり、いろいろな形をしていました。一体何をしてきたのか……、皆、どっぷりつかれた顔をしていたり、じっと目を閉じていたりしました。
あれが製品っていうヤツだよ。ぼくたちも、加工されてあんなふうに形が変わるんだ。すごいね人間は。自分たちに必要なものの形を計算して絵を描いて、その通りにぼくたちの形を変えてしまうんだから。
……うん。
人間は、どうもその製品にも、何かの記号や番号をつけて呼んでいるらしいのです。それは今の自分に付けられたものとは違って、その製品だけの特別な名前のようです。しかも、その名前によって行き先があちこち振り分けられているみたいなのです。
ごろごろと運ばれてきた「製品」というものは、お迎えに来た、どこかのトラックに乗せられ、どこかへ連れられていきました。
さっきのヤツ、熱処理屋さんに行ったみたいだね。
熱処理屋さんって?
さっき言ったよね。ぼくたちは削られたり焼かれたりする運命なんだって。熱処理屋さんっていうのは、焼くことを専門にしている工場なんだ。
どうして? どうして焼かれなきゃいけないの!? やだよ……
さっきのヤツにも、もちろんぼくとキミにも、体の中に人間が決めた量の炭素というものが混じっていて、そのせいで高い熱で焼かれて冷やされることで体が硬くしなやかになるんだ。ぼくたちがそうなることが人間にとって都合が良いらしいんだよ。
……人間って、……勝手だね。
これは運命なんだよ。焼かれたりしないで済む仲間もいっぱいいるから。
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