じっくり見るには丸2日間はかかる上海モーターショーの広い会場。展示を一巡して感じたのは「パッとしない。活力が感じられない」ということだった。「売らんがため」の量産仕様の展示や、規制を踏まえて各社が注力するEVやPHEVから見えてきたものとは。
中国市場の潮目が変わった。
オート上海(通称:上海モーターショー)の会場を巡りながら、そう思った。
虹橋空港近くにある、展示会場の国家会展中心は、上空から見ると四つ葉のクローバーのような形状をしている巨大な施設。このうち、オート上海の展示スペースは1階に8カ所、そして2階に5カ所あり、じっくり見るには少なくとも丸2日間はかかる。
取材初日、まずは会場全体の雰囲気を知るために、地元の上海集団が自社ブランドとGMブランドを展示するホール1から、地場メーカー、日中合弁メーカー、欧中合弁メーカー、そして部品メーカーなどのブースを順に、ホール8まで速足で約5時間かけて回った。
会場を一回りし終えた時点での感想は「なんだか、パッとしない。メーカー側の活力が感じされない」というネガティブなものだった。
こうした気持ちを整理してみると、2つのキーワードが浮かんだ。「Matured(成熟)」と「Controlled(制御)」だ。
まず、Matured(成熟)についてだが、どのメーカーもSUVがイチ押しで、定番のセダンや、需要が増えてきた大型ミニバンをズラリと並べた。中国地場の大手、中堅、さらにはベンチャーなど、そして日米欧のメーカーのどのクルマもパッと見た目では、どれも一緒といった印象だ。
ひと昔前まで、上海、北京、広州といった大規模なモーターショーでは、少々度が過ぎたようなコンセプトモデルが数多く登場したものだ。今では、生産を確定したコンセプトモデルが主流となった。これでは、メーカーからディーラーに“売らんがため”で新型車を提案していた北米国際自動車ショー(通称:デトロイトショー)と同じような展示の内容だ。
こうした状況について、中国市場を長年見てきた日系メーカーの幹部は「近年、中国メーカーの製品の出来は極めて優秀だ。中国地場メーカーはドイツのデザインスタジオや部品メーカーとのつながりが強く、そこにわれわれ日系メーカーとの合弁による技術連携で商品力が急速に高まった」と厳しい表情を浮かべる。
商品の企画、デザイン、車両とエンジンの設計、部品の調達、そして製造技術に至るまで、中国自動車産業の水準は、日本国内の自動車業界関係者の想像を超える高いレベルに達しているのだ。
そうした中、いま中国市場で起こっているのが、ブランド戦略による顧客の奪い合いだ。引き金となったのがSUVだ。中国地場メーカーにとって、SUVはモデルラインアップの最上位となる高級車であり、利幅が大きな主力製品である。
SUVといえば、1990年代後半に米国市場で急拡大し、フルサイズ、ミッドサイズ、コンパクトと大きく3カテゴリーに分類される。この傾向を欧州メーカーや日本メーカーも踏襲して、米国市場でのSUV合戦となった。
また、トヨタ自動車の「IMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)」のような、東南アジアで生産し世界各所の新興国へと輸出するプラットフォームを活用する中型SUVの市場も大きい。一方で、中国市場向けのSUVは、こうした米国や新興国向けとは違い、中型サイズでも高級感を追求する中国人独自の趣向性に対応した中国専用モデルである。
とはいえ、各メーカーが一斉に中国向けSUVを登場させているため、デザインによる差別化がとても難しい。そのため、各メーカーがブランドを構築するマーケティング活動を強化しているのだが、それがとても“薄っぺらい”印象がある。欧米メーカーの宣伝をモチーフとしたイメージ映像を流し、ディーラーの内装を演出する、といった手法が目立つ。
中国市場は明らかに成熟しており、ブランド戦略による過当競争が始まっている。
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