松本 実際、今、私たちの身のまわりにあるものの多くがTRONでコントロールされていますね。
坂村 家電製品など色々なものに入っていて、デジタルカメラでは80%くらい、車のエンジンのコントロールとか、はやぶさとかH2Aロケットとか、そういうものにもたくさん入っています。日本だけでなく全世界で使われているので、知名度が高い組込みシステムになっています。TRONの本も、世界中の言葉に翻訳されていて、中国語訳も韓国語訳もありますし、最近ではベトナムやインドネシア、マレーシアなどにも。TRONが世界のどこからロードされているかということは、当然インターネットでわかるわけですが、最近はアフリカがかなり増えています。一体何に使っているんですかと聞くと、やはり携帯電話に使いたいという答えが多い。とくに開発途上国ではそうです。そうした国では、今のスマートフォンは高額でとても買えない。それを全国民に持たせることはできないんです。日本でも高級機は今、10万円近くしますからね。そこで彼らは、日本の初期の携帯電話がすべてTRONで作ってあると知って、これで行こうと考えた。今、彼らが実現したいのは通信網の確立です。別にゲームがしたいわけではありません。基本的な社会活動、経済活動のために必要なのです。
松本 新たに電話線を引くのは大変だけれど、携帯電話なら簡単に最低限の通信網ができますね。
坂村 そこでTRONが役立ちます。私もそういう人たちに技術提供することは、TRONプロジェクトの重要なミッションだと考えています。少し話が飛びますが、そもそも最先端の開発だけでは、地球は維持できません。開発途上国をどう助けるかは、今、世界の非常に重要な課題です。ところが日本は、自分達のことばかり考えている。新しいもの、新しいものと考えて、結局みんな失敗しています。現在は国連でも、ポバティ(貧困)をどう救うかということが、環境保全と並ぶくらい重要なプロジェクトになっている。私もそういうことに貢献したい、と考えているんです。おかげさまで、そういう私の研究や行動に賛同して寄付をしてくださる方が、コンピュータ業界ではないところでも大勢出てきている。非常に嬉しく、頼もしく思います。
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