産業技術総合研究所は、「外力支援型近接場照明バイオセンサー」を開発した。夾雑物を含む試料中のごく少量のバイオ物質を、夾雑物を除去しなくても高感度に検出でき、ウイルス感染予防への貢献が期待される。
産業技術総合研究所は2016年12月20日、「外力支援型近接場照明バイオセンサー(EFA-NIバイオセンサー)」を開発したと発表した。夾雑(きょうざつ)物を含む試料中のごく少量のウイルスなどのバイオ物質を、夾雑物を除去しなくても高感度に検出でき、ウイルス感染予防への貢献が期待される。
EFA-NIバイオセンサーは、センサーから高さ数マイクロメートルの空間だけを照らす近接場光と外部磁場を利用し、対象を「動く光点」にして検出する。検出対象のバイオ物質に磁気微粒子と光を散乱する微粒子を付着させ、磁石と近接場光により「動く光点」を作って検出する。従来法にはない「動き」の識別方法により、夾雑物が多い試料から簡単な操作で低濃度のバイオ物質を検出できる。
ポリスチレンビーズを光信号用の微粒子に用いると近接場光を散乱するため、その散乱光を光信号とした。磁気微粒子は単体では近接場光を散乱せず、ポリスチレンビーズ単体では磁力で動かないため、磁気微粒子とポリスチレンビーズの両方が付着したバイオ物質だけが近接場光と外部の磁石によって「動く光点」となる。
この動く光点を明瞭に観測するため、強度を100倍以上に増強できる導波モード励起機構による近接場光を用いた。光強度が増幅されて強い散乱光を観測でき、微粒子からの光信号の動きを動画として観察できる。導波モード励起機構によって増強された近接場光は表面から1μm程度までは入射光以上の強度で届くため、表面からやや浮いたポリスチレンビーズからも散乱光を観測できる。
さらに、磁石をセンサーチップの横だけでなく裏側にも配置した。これにより、磁気微粒子とポリスチレンビーズの両方が付着したバイオ物質をセンサー表面へ引き寄せて、近接場光の範囲内に入れて光らせられる。
この手法で、都市下水の二次処理水200μlにノロウイルス様粒子約80個を混入(濃度10fg/ml程度)させた試料中からウイルス様粒子検出に成功し、洗浄工程を省略しても従来法より数桁高い感度で検出できることが示された。今回検出できたノロウイルス様粒子の濃度は、従来のイムノクロマトグラフィー法(1ng/ml程度)や酵素結合免疫吸着法(10pg/ml程度)で検出可能な濃度よりも3〜5桁低い。
2017年の春ごろには、片手で持ち運びできる装置が完成する予定。感度を1桁向上させ、試料中に数個含まれるウイルスの検出を目指し、定量性を持たせるなど性能向上を図る。
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