ホンダとヤマハ発動機は、国内向けの原付1種で協業の検討を始めた。市場縮小が進む一方で保安基準や排出ガス規制への対応が課題となっており、1社単独で原付1種で収益を確保するビジネスモデルを維持し続けるのが難しくなっていた。提携範囲は原付1種のみ。
ホンダとヤマハ発動機は2016年10月5日、国内向け二輪車の原付1種に関して協業の検討を始めたと発表した。業務提携の範囲として、ホンダからヤマハ発動機への排気量50cc原付スクーターのOEM供給、商用原付スクーターの共同開発、原付1種クラスの電動二輪車の普及を挙げている。原付1種より排気量の大きいセグメントは競争領域と位置付け、協業の対象としない。
原付1種は、強化されている保安基準や排出ガス規制への対応が課題となっており、単独で取り組み続けるのは困難だと判断した。また、国内の原付1種市場は縮小傾向にあるが保有台数は約600万台に上り、「お客さまがいるという責任を果たす役割がある」(ホンダ)と考え、協業に至った。2017年3月末までに正式に業務提携を結ぶ。
原付1種は排気量50cc以下のエンジンもしくは定格出力0.6kW以下のモーターを搭載する2輪以上の乗り物だ。二輪車メーカーがエントリーモデルと位置付ける最小排気量のセグメントだ。近距離の移動手段や新聞などの配送業向けで市場が確立していたが、近年では軽自動車や電動アシスト付き自転車が競合となり販売が減少している。
価格や原付1種に特有の制限も市場縮小に影響しているという。「原付1種は購入時に価格が重要視される。しかし、安全基準や環境規制に対応する中で価格が上がらざるを得ない状況にある。また、時速30kmの制限や2段階右折、2人乗り禁止などの不便さから原付2種に流れるユーザーも少なくない」(ホンダ 取締役 執行役員の青山真二氏)。
2015年の二輪車全体の国内販売台数は前年比10.6%減の37万3000台で、このうち原付1種は同15.3%減の19万4000台だった。原付1種は2005年には50万台弱の市場規模があったが、現在では半分以下に縮小している。
その上、二輪車メーカーが対応すべき保安基準や排出ガス規制は厳しくなっており、「1社単独で対応し続けるのが難しい」(ヤマハ発動機 取締役 常務執行役員の渡部克明氏)。また、ホンダ、ヤマハ発動機ともに原付1種クラスでの電動化の推進も課題として捉えている。
しかし、原付1種は保有台数が多く、二輪車メーカーとしてエントリーモデルを維持し続けたい市場でもある。ヤマハ発動機とホンダで共通した原付1種の課題を整理し、協業できると判断した。
業務提携の対象として検討していくのは次の通り。ただし、原付1種よりも排気量の大きいセグメントは競争領域だとして協業の範囲に含めない。販路についても両社で独立して維持する。
2018年をめどに、ホンダが生産、販売する排気量50cc原付スクーター「タクト」「ジョルノ」をベースとしたモデルをヤマハ発動機に供給する。ヤマハ発動機は独自デザインで「ジョグ」「ビーノ」として販売する。生産はホンダの熊本製作所で行う。
ホンダは熊本製作所の稼働率向上が見込め、ヤマハ発動機は開発/生産のリソースを大排気量の車種や海外向けモデルに振り向ける。ヤマハ発動機はジョグ/ビーノ以外の原付1種の維持については今後検討するとしている。
こうしたOEM供給は「大排気量のモデルであればブランド力の低下につながる」(渡部氏)が、今回の協業は小排気量の原付1種が対象となり、デザインもヤマハ発動機で独自に手掛けることから、ブランドイメージの毀損(きそん)にはならないとしている。
また、排気量50ccの商用向け原付スクーターは現在、ホンダは「ベンリィ」、ヤマハ発動機は「ギア」を生産/販売しているが、これらの次期モデルを両社で共同開発し、ホンダからヤマハ発動機にOEM供給する。
普及が進まない原付1種の電動二輪車については、具体的なモデルの共同開発ではなく、電動二輪車の課題解決に向けた基盤づくりを優先する。大きな課題となっているのは、走行距離/充電時間/登坂など走行性能/バッテリーのコストの4つ。こうした課題をどのように解決できるか検討を進め、成果を同業他社にも提案していく。電動二輪車を早期に普及させるため、協力する。
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