3D CADデータを表示したVR空間で歩き回ることが実現すると、当然、その部品をつかんで動かしたりしたくなります。3D CADにも干渉チェックがあるのだから、「当然出来るだろう」とユーザーは期待しますが、3D CADの干渉チェックの計算方法はVRで要求される毎秒75フレーム、90フレームでスムーズに動くようなものではなく、CADの平面ディスプレイ表示においてすら実際の物体を動かすようにはスムーズに動きません。
一方、3Dゲームの世界では、ゲームの中で物体をつかんで投げたり、投げた物体がぶつかったものを跳ね飛ばしたりということが既に実現しています。これらはゲームエンジンという、3D表示と物体同士の衝突、反射などの物理シミュレーションをリアルタイムで動かせるソフトウェアパッケージによって実現されています。
最近のゲームエンジンはVR表示をサポートしており、次々と誕生するVR ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の新製品についてもゲームエンジンに対応するドライバーやプラグインを備えています。つまり、ゲームエンジンで3D空間を作るだけでVRにも簡単に対応することが可能なのです。
そして、この技術を製造業VRで利用すればよいのではときっと思うでしょう。そのためには、CADの3Dデータをゲームエンジンに持ち込む必要がありますが、ここにもまた非常に高いハードルがあるのです。
ゲームエンジンに3Dデータを取り込むためのルールの1つに、「1つの3Dオブジェクトの頂点数がゲームエンジンごとで定められた数以内であること」という事項があります。これより多い場合はオブジェクトを分割しなければなりません。
また、ゲームエンジン用の3Dモデルは、1つのモデルでなく多数のモデルを同時にスムーズに動かすことを前提としており、とてつもなく巨大である3Dデータ単体はそもそも想定されていません。「とてつもなく巨大である3Dデータ単体」がまさに3D CADデータなのです。
これまでは、ゲームエンジンでCADデータの3D形状を使いたい場合、まず「3ds Max」や「Maya」などのIGESデータを読み込む機能を持つハイエンドCGソフトでインポートし、OBJやFBXなどの形式のポリゴンファイルとして保存してからゲームエンジンへインポートしていました。しかし、ポリゴン形式のファイルが保存できたとしても、ゲームエンジンの側にも読み込めるポリゴンファイルの容量に限界があり、部品数が多く複雑すぎる形状である過大容量のポリゴンファイルを読み込ませようとすると、ゲームエンジンのエディタ環境ごとクラッシュしてしまう場合が多いです。CGソフトから出力したポリゴンファイルをまた別のソフトウェアでポリゴン削減してからゲームエンジンに持ってくる必要があったりして作業の難易度が高くなり、これまではあまり広くは行われてきませんでした。
ゲームエンジンでVR表示するために、CADデータを何とかゲームエンジン側に持っていきたい場合、現在は一部のゲームエンジン用ではありますが、専用の3D CADデータインポートプラグインが存在します。
ゲームエンジン「Unity」用のプラグイン「Unity CAD Importer」は、色付きのIGESファイルをCADモデルのツリー構造を再現して読み込むことが可能です。ハイエンドCGソフトでもポリゴンファイル化できない、2000部品を超えるようなCADモデルでも読み込めます。万が一、モデル容量が大きすぎた場合も、安全にエラー中断してくれます。ゲームエンジンのエディタに標準搭載するポリゴンファイルインポート機能のように、エディタ全体がクラッシュして保存前の作成中データが全て消えてしまうようなことは起こりません。
このUnity CAD Importerはユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが日本独自に企画し、モノコミュニティーと筆者が属するプロノハーツで共同開発しました。現在はIGESファイルのみが読み込めますが、色付きのCADデータの出力に広く使われているSTEPファイルへの対応を進めています。
ゲームエンジンUnityを開発・販売している、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの伊藤さんは次のように述べています。「Unityは『ゲームを作るためのツール』として広く認知されていますが、昨今では建築、住宅、アパレル、医療、自動車といったようなさまざまな用途で使われ始めています。製造業もVR/ARの用途としてUnityを使う事例が増えてきています。ゲーム以外の分野でも広がっているの理由の1つは『ユーザー数が圧倒的で情報が困らない』という点があると考えています。やりたいことへのプロセスが大変だったり、調べることが困難だったりすると、どんなに優れたツールでもうまく利用できません。その点、Unityは検索エンジンで『Unity+やりたいこと』と検索すれば大体のことは解決できます」。
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