NECは、京都工繊や漆芸家の下出祐太郎氏と共同で、伝統工芸の漆器が持つ独特の美しい漆黒を実現したバイオプラスチックを開発した。今後、材料メーカーなどと提携し漆風素材の量産や普及を目指す。
NECは2016年8月17日、京都工芸繊維大学(以下、京都工繊)および漆芸家の下出祐太郎氏(下出蒔絵(まきえ)司所三代目、京都産業大学教授)と共同で、国際的にも高い評価を得ている伝統工芸の漆器が持つ美しさを再現するバイオプラスチックを開発したと発表した。
NECでは、石油資源の枯渇や食料問題への対策として、以前から環境経営の一環として、非食用植物を使ったセルロース系の独自バイオプラスチックを開発。自社の電子機器製品など7製品に適用し、使用を進めてきた。環境意識の高まりから、バイオプラスチック市場は年間100万トン規模へと成長してきたというが、コスト面や用途拡大などで課題を抱えており、石油系プラスチックへの置き換えには程遠いというのが現状である。
これらの状況に対し「生産量を拡大し、コストを下げて利用を拡大していくには、環境対応以外の付加価値も必要になる。この『エコ+α』の高い付加価値を目指す中で、日本の伝統工芸である『漆(うるし)』に行きついた」とNEC IoTデバイス研究所所長の津村聡一氏は述べる。
今回の「漆」の美しさを再現するバイオプラスチックは、新たに機能性に加え装飾性(デザイン性)という付加価値を目指したことが特徴だ。着色性や光の反射性を調整する添加成分の配合技術を開発し、高級な漆器の深く艶(つや)のある漆ブラックと同等の光学特性(低明度や高光沢度など)を実現したという。
漆の特性は、定義が定まっておらずまだ十分に定量的な評価ができない状況である。この点については、京都工繊 伝統みらい教育研究センターと、日本を代表する漆芸家の下出祐太郎氏と共同研究を進めることで、下出氏の感覚を形式知化。定量的評価を行えるようにすることで、漆の持つ光沢や彩度とともに温かみや深みなど感覚的な表現なども再現できるようにした。
京都工繊 教授で、伝統みらい教育研究センターのセンター長の濱田泰以氏は「漆の黒を形式知化することを目指して、下出氏の感覚と光反射特性の結果を照らし合わせて評価を作り上げた。こうした指標の形式知化を進めていくことで技能伝承などの問題解決にもつなげ、新しいモノづくりの価値を生み出していきたい」と話している。
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