enmono 普通の金型だと磨きますよね。
梶川 普通は磨くんですけど、これに関しては削りっぱなしです。カッター目とかもあったり、逆にそれを生かそうかな、と。
enmono これを作られて、このあいだ展示会で展示をされたんですよね。東京ビッグサイトで。お客さまの反応はいかがでしたか?
梶川 ちょっとドン引かれるかなと思ったんですけど、予想以上に通っていく人が「あ、すげー」とか「わ、なんだこれ?」ってポソッと言いますよね。そういうのが聞こえてきて、意外にみんな反応いいなぁと思って。
梶川 パッと見は「モノ(鋳物)なんですか?(鋳造なんですか?)」って言われる方もいたし、やっぱり分かんないらしいんですよね。「これ削り出しなんですよ」って言ったら、またそこでさらに「これ削ったんですか!」みたいな人も何人かいらっしゃいましたね。
enmono 日本の伝統的な技術からデザインをお借りして最先端の3DスキャナとNC機械で非常に細かく削り出しているというのが印象的です。伝統と革新が一緒になっているアート作品だと思います。外国のお客さまにも関心を持っていただいたとか? どのような方なんですか?
梶川 私は詳しく存じ上げないんですけど、非常に日本語が上手な方で、一応名刺交換して。「これ素晴らしいですね」っていうことで「是非富山へ行きたい」と連絡が入って来週本当にいらっしゃるんですよ。
enmono つながればいいですね。
梶川 ええ、つながればいいですよね。
enmono こういった作品を御社で作るだけではなくて日本中の町工場が作ったものが多分あるはずだと、そういうものをこの富山ファクトリーアートミュージアムに持ちこんでいただいて、日本中から来る方に見ていただこうというのが、この富山ファクトリーアートミュージアムのコンセプトです。
enmono 後半もミュージアムのお話は引き続き伺っていきたいんですけど、梶川さんのお考えではミュージアムを作ることでフジタさんが活性化するだけではなくて、高岡周辺の工場や町を大きく変えていきたいという思いがあると。
梶川 富山県高岡市というと皆さん「鋳物・銅器の町ですね」って言われて――これも伝統産業なんですけど――、普通の工業製品作っている会社っていうのは全然出てこないんですよ。皆、「あーあー、銅器の町ですね」って言われて、私たちはどちらかというと業界が違うところにいるので、「そうそうそう、銅器の町なんですよ。でも私たちは違うことをしてますよ」ということをいちいち説明しているのが結構めんどくさいなぁっていうところがあるので(笑)。
梶川 それだったら「モノづくり」は同じなので銅器の協会なんかでも、例えば銅像なんかを造るのに原型を作る原型師さんがいるんですよね、そういう方たちはどちらかというと芸術家タイプで、そういう方たちがすぐそこにいるんだから、デジタルのスキャナーとかマシニングセンターを使って組み合わせることは可能だと思うんですよね。なので、ウチらは業界が違うっていうんじゃなくて、お互い持っているもの同士を使い合えば、また新たなものが作れるんじゃないかなっていう可能性はあると思います。
enmono 地元の人たちとよりコラボレーションしていって、アナログとデジタルの融合をしていきたいということと、「交流」という意味でもこのミュージアムができることで、分断されていたわけではないと思うんですが、交流のなかった人たちと交流を広げていこうと。メタルアートというのがちゃんとした芸術作品になるということを知っていただくことで、周りの工場さんの意識も少しずつ変わっていくと思うんですよね。「なにかウチにもできるかもしれない」とか。作ったものをここへ持ちこんでいただくということができるといいなと。後、こういうのができるとモノづくりと観光の関係っていうのも変わっていくんじゃないかと思うんですけど。
梶川 実際、高岡市の福岡町っていうのはバスが停まるような観光地が1つもなくて、高岡市から直接インターに乗って五箇山とか能登とか……素通りの場所になってしまうんですね。せっかく北陸新幹線も開通したのに「人増えたかな?」っていったらよく分からない。全然変わっていないので、ぜひ「富山のどっかに金属のアート作品を作っているミュージアムがあるらしいよ」とか「できたらしいよ」というのをきっかけに1人でも足を運んでいただけたら。
enmono (都道府県別、人口1万人当たりの美術館数のグラフを見ながら)富山県が全国で一番多いんですよね(数値は4.86。2015年8月アートスケープミュージアム参照)。これはどういうことなんですかね?
梶川 どういうことなのかは私には分からないですけど(笑)。
enmono やっぱり美しいものとかを皆さん求めてらっしゃるんでしょうか。
梶川 そういう文化が根付いているんだと思いますね。
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